インターネット関連の新興企業が株式市場でもてはやされたネットベンチャー・ブームも,米国のナスダックでの大暴落などの逆風下で熱が冷めてきたように見える。

 東証マザーズに続いて,ネットベンチャー向けの市場になるといわれているナスダック・ジャパンが6月19日に取引を開始するが,昨年12月に東証マザーズがスタートしたときのような盛り上がりはいまのところ見られない。これらのベンチャー向け新市場は,インターネット関連ビジネスのための資金を供給するという重要な役割があり,市場の活力はそのまま,ネットベンチャーが活躍する基盤ということができる。

 にもかかわらず,なぜネットベンチャー・ブームが冷め始めているのだろうか?

 米国で企業ネットワーク・システムのコンサルタント会社InterBusinessを経営する野口芳延氏は,「ベンチャー向け市場への上場を予定している企業が新聞などで紹介されていますが,米国ならとても上場などできそうもない会社がいっぱい並んでいます。このままだと日本のベンチャー向け市場にはジャンクディール(ガラクタ物件=質の悪い銘柄)が次々と上場し,市場全体の信用を損なう恐れがあります」と厳しい指摘をする。

 ナスダック・ジャパンが加わることで日本のベンチャー向け市場は店頭市場,東証マザーズとあわせて三つになる。三つの市場で銘柄を取り合うことになる。証券会社は上場させれば手数料が入ってくるので,どんどん上場に持っていこうとする。つまりジャンクディールが上場されやすい状況にあるといえる。

 このような事態を防ぐにはどうすれば良いのか?

 このために東証マザーズもナスダック・ジャパンも上場の基準を厳しくするといった対策を立ててはいる。しかし,問題の本質はそこではない。本当の目的は,優れた技術や卓越したビジネスモデルを持つベンチャー企業を上場させることであるはずだ。単に基準を厳しくして,上場を難しくすればベンチャー向けの市場の特性を失うだけである。ではどうすれば良いのか?

 この点について野口氏は,「米国には,ベンチャー企業を本当の立ち上げから株式の新規公開(IPO)まで育てて行くIPOインフラストラクチャがあります。単に資金を提供するだけでなく,人材も,経営のノウハウも提供して,しっかりベンチャー企業を育てています。要するに日本には,このようなインフラが整備されていないのです。単に資金供給だけの問題ではないのです」と言う。

 米国のIPOインフラというのは金,人,ノウハウも出すが口も出すという厳しいもののようだ。ベンチャー企業育成のために支援し,その見返りもしっかり取るという考えだ。支援する側もそれだけ必死であり,ベンチャー企業に対しても厳しく臨むことになるわけだ。このような厳しさのなかから21世紀のネットワーク社会を担う企業が育って行くのだろう。

 日本の場合,資金供給の部分だけはベンチャー向け市場ということで準備されたが,本当に大事な人材やノウハウを提供するインフラが欠落している。21世紀のネットワーク社会を担う企業を育てるためにも,ベンチャー企業のためのインフラストラクチャ作りを急がなければならないのではないか。

(松本 庸史=ネットワーク局主席編集委員)