NTTドコモの携帯電話サービス「iモード」の勢いが止まらない。

 5月末の加入者は700万加入を突破し,6月18日の時点で770万加入に到達した。さらに6月20日からは208シリーズの後継機である209iが登場。NTTドコモの主力商品ラインアップである800MHz帯の携帯電話が全機種iモード対応へ移行した。今後,NTTドコモの新機種を購入するユーザは,全員iモード機能を手にすることになる。NTTドコモの携帯電話加入者すべてがiモード・ユーザに変わる日も,そう遠い話ではない。

 iモードはインターネット・メールを送受信できる機能があることや,WWWに似た画像付きコンテンツを閲覧できることから,しばしばインターネットと比較されてきた。NTTドコモの全携帯電話ユーザがiモード化すれば,1700万人とも1900万人とも言われている“ライバル”のインターネット・ユーザの数をあっさり抜き去ることになる。だが,iモードは本当にインターネットなのか?

 NTTドコモはこれまで繰り返し「iモードはインターネットではない。iモードはNTTドコモの携帯電話サービスである」と強調してきた。その証拠にiモード・コンテンツを閲覧するためには,ユーザはまずNTTドコモのiモードのメニュー・ページに行かなくてはならない(もちろん気に入ったコンテンツを限られたブックマークに登録することは可能だが)。そしてそのメニュー・ページからたどり着ける“公式サイト”では,広告掲載の禁止,外部サイトへのリンクの禁止,外部サイトの検索機能の禁止などなど,到底インターネットの世界では考えられないような様々な制約を課してきた。

 かつてアダルト・コンテンツがあふれて,事業そのものが立ち行かなくなったダイヤルQ2の二の舞を恐れての措置だったのだろう。NTTドコモのリンク元責任などを,担当者がしきりに口にしていたことが記憶に新しい。

 ところが,そんなNTTドコモが豹変した。6月1日に電通,NTTアドと共同で,iモード向けの広告会社ディーツーコミュニケーションズ(D2コミュニケーションズ)を設立。iモード向け広告掲載サービスへの参入を表明したのである。つまり,事実上の“広告解禁”宣言である。広告掲載サイト側へ責任ある対応を求めたとはいえ,いったんバナー広告などで一般サイトへ飛び出した後にどのようなリンクをたどるかなどを検証することは不可能だ。まさに後はインターネットの世界と同じである。

 事実,最近のNTTドコモは,担当役員ですら「iモードはインターネットである」と口にするようになった。今後は本格的な検索サービスも公式サイトのなかに登場し,インターネットさながらのポータル・サイト競争などが展開していくことだろう。

 それで再びはじめの疑問に戻る。iモードはインターネットなのだろうか?

 広告掲載などの表面的な事象はあたかもインターネットであるかのように見える。だが,インターネットの世界と決定的に異なるのが,コンテンツ主導,ユーザ主導の自由競争が実現できていない点だ。確かにサービスの初期段階においては,バランスのとれたコンテンツの品ぞろえや電話代と一緒にコンテンツ代金を徴収してくれる仕組みなど,優れたビジネスモデルを提示したことで,多くのコンテンツ事業者やユーザの支持を得ることに成功した。しかし,iモードを代表とする携帯電話サービスが,本当にインターネット・サービスとして発展していくためには,それだけでは不十分である。

 インターネットの世界でいえば,NTTドコモはさしずめサービス・プロバイダーおよび回線事業者の一つに過ぎない。こう言いきってしまうのは,これだけのサービスを育て上げたNTTドコモに対して失礼だが,インターネットと比較する以上,いたしかたない。インターネットにおてはユーザの目的はあくまでもコンテンツである。サービス・プロバイダーや回線事業者はその目的を達成するために,より良いアクセス環境を提供してくれるための存在でしかない。

 現にiモード・サービスのアクセス環境に関して,ユーザの選択肢はない。月々のコンテンツ閲覧にかかるパケット代金を節約したくても,サービス・プロバイダーを変えることはできない。コンテンツ事業者にしても,NTTドコモに代金徴収をしてもらうためには,9%という手数料を支払わなくてはならない。

 NTTドコモが5月に発表した2000年3月期のパケット通信収入は385億円に上った。前年度が2億円であったことを考えると,そのほとんどはiモードがもたらしたものだ。

 NTTドコモはもう既に十分,先行者利益を得ているはずである。広告掲載の解禁や検索サービスの解禁によって,NTTドコモがiモードのポータル・サイトとしての地位をより強固なものにするのは,iモード・サービスの枠のなかだけで事業を考えるのであれば別に構わない。

 しかし今後,iモードに代表される携帯電話サービスを,インターネットと並ぶメディアへと飛躍させていくためには,NTTドコモがサービス・プロバイダー(および回線事業者)の1社という地位に“下野”するという英断を下すことも,選択肢として残されているのではないのだろうか。