インターネットや通信衛星を使って,テレビやVTR並みの画質の映像コンテンツを配信する企業が増えてきた。1M~6Mビット/秒の回線速度に対応したコンテンツを,月々50万~60万円程度のランニング・コストで配信できるようになったためである。インターネットと通信衛星を目的や用途に合わせて選択しながら,金融情報や新製品の宣伝,研修用といったコンテンツを高い画質で提供する企業は今後も増えるだろう。

 インターネットの映像伝送技術として再生待ち時間の少ないストリーミング・ビデオ技術があるが,これまでは56kモデムに合わせたものが多く,再生したときの映像の解像度が低かった。コンテンツが対応する伝送速度は,高くてもせいぜい300kビット/秒程度だった。

 ところが,ソニーは10月から1Mビット/秒のストリーミング・ビデオ・コンテンツを置くサイト「Mega-Channel」を開設する。すでにテストを開始しているので,どのようなものか見ることができる(URLは http://mega-channel.com)。大和證券やリクルート,JTBなどが映像コンテンツを置く予定だ。このほか映画紹介なども提供する。ちなみに,筆者も同サイトのコンテンツを日経BP社内のLAN経由で何回か視聴したが,実際に解像度が高かったし,1Mビット/秒程度の数字も画面の速度モニターに表示された。

 通信衛星を使って映像を送る場合は,数Mビット/秒で符号化して送信しているのでもともと画質が高い。最近,外食産業の多くの店舗で衛星通信を利用するというニュースが注目を集めた。すかいらーくは食事に来る顧客向けの情報番組や社員教育用の映像コンテンツを,衛星を使って約1200店舗に配信すると8月に発表した。日本マクドナルドも同じように映像を配信する店舗を増やす意向を表明している。

映像配信費用は月50万~60万円ほど

 映像コンテンツの配信コストは安くなった。送出するコンテンツ量などによってコストは大きく変わるので一概にはいくらと言えないが,50万円/月ぐらいでもけっこうなことができる。具体例を示そう。

 まず,すかいらーくのシステムを受注した有線ブロードネットワークス(旧大阪有線放送,2000年4月に社名変更)の価格を見てみよう。

 100店舗に専用の衛星受信端末(13Gバイトのハード・ディスク装置を内蔵)を1台ずつ設置した場合の同社の見積もり例を示す(ディスプレイと映像撮影・編集などの制作費は別)。各店舗に毎月,合計1時間分の映像を送信すると仮定する(符号化方式は4Mビット/秒のMPEG2)。

 イニシャル・コストは,パラボラ・アンテナや取り付け工事費込みで2370万円。さすがにこの費用は高いが,100台の端末代1820万円が大きい。従来でも普通はパソコンを購入する必要があったので,1店舗当たり約24万円の投資は仕方がないだろう。むしろパソコンを利用する場合よりも,かなり安くなると同社は述べている。

 ランニング・コストは,月に59万5000円。1店舗当たり約6000円である。これには基本使用料金とコンテンツ送信管理費,1時間分のコンテンツ送信費,送信前のエンコード費を含む。基本的にはこれだけだ。

 なお,すかいらーくは今回の配信システムを導入するときに10社程度から見積もりをとったが,有線ブロードネットワークスのシステムが最も安かったという。最高値の1/10だったらしい。

 まだ相場が固まっていないようだが,価格に大きな開きがでた理由の一つは,見積もりに参加した企業の需要予測が異なったためと思われる。有線ブロードネットワークスは,この配信事業の損益分岐点が1万店舗だという。すかいらーくが1200店舗なので,あと約9000店舗の顧客を獲得しなければならないが,その見込みは十分あると述べる。

 同社は有線放送による音楽コンテンツの配信に関しては実績を積んでいる。流通業ではダイエーや西友などチェーンストア関係だけで3万6000店舗の音楽コンテンツ配信の顧客を抱えており,これらの相当数が映像コンテンツの配信に踏み切ると読む。だから開発費を分散させて,システム価格を安くできる。高い価格を提示したところは,顧客を獲得できる自信がなく,すかいらーくに開発費を押しつけてしまったのだろう。

 一方,ソニーのインターネット配信サービスの使用料は月50万円。これは100Mバイトの映像コンテンツをサーバーから流す場合の価格である。ネットワークの接続コスト,サーバーやルーターのコスト,運用人件費を含む。映像のエンコード料は別だが,安いところに頼めば数万円でできるという。容量全体が100Mバイトでも映像コンテンツに利用できる容量は80Mバイト程度になるので,1Mビット/秒でエンコードすると約10分の映像流せることになる(実際には複数のファイル・フォーマットや伝送速度に対応しなければならないので,この数分の1の時間になってしまうことが多い)。

映像コンテンツを発注しやすくなる

 ところで,いくら配信コストが安くなっても,映像コンテンツを作らなければ始まらない。作りたくても映像コンテンツに馴染みがない企業や部署は,どこに発注すればよいのか,どの程度の費用と期間で制作できるのか,なかなかわからないだろう。通常だと広告代理店に頼むか,個人のツテを求めるしかない。代理店だと高価になることが多いようだ。

 そこでソニーは,ストリーミング・ビデオ事業の一環として,ユーザーに対して映像制作者を紹介する役割も引き受ける。「2週間で作りたいのだけど誰かいい人いない?」と聞いてくるようなユーザーに対するサービスである。クリエータの人材派遣を行うクリーク・アンド・リバーと手を組んで制作者を紹介する。

 ただし映像制作者の紹介はするが,ソニーは進行や納期の管理は行わない。管理はユーザーが行わなければならない。ソニーではWWW制作業務については管理まで責任をもって担当するが,そのなかの映像部分は責任を持てないという。映像コンテンツ関連の売り上げがまだ小さい上に,企画,撮影,編集など工数が多く関係者数も増えるため,面倒を見るのが大変だからだ。家電の開発・生産のように,コンテンツをどんどん量産できる“コンテンツ・ファクトリー”の構築を目指すソニーにとっても,今のところ映像は“特注品”のようだ。

 それでも納期,費用,品質について何もわからないユーザーにとっては,ソニーの紹介は大きく役に立つだろう。またソニーだけでなく,ストリーミングビデオ制作を請け負う企業は徐々に出てきている。ユーザーは次第に映像コンテンツを発注しやすくなる。

(安保 秀雄=日経CG編集長)