レコード・ショップにズラッと並ぶポケモンやガンダムなどのビデオやDVDのタイトル。隣のシューズ・ショップの店頭で大きなスペースを占めるのはポケモンの運動靴だ。一方,おもちゃ屋では子供たちがデジモンやセーラームーンの玩具を親にねだっている。

 アニメ関連の商品が溢れるここは日本ではない。実は米国ロサンゼルス市内のショッピング・センターの風景なのだ。

 99年末に公開され全米第1位の興行成績を獲得した「ポケモン・ザ・ファースト・ムービー」。この“事件”をきっかけに,日本のアニメに対する潜在的な需要が一気に顕在化した。過去にも日本のアニメは米国に進出していた。だが,その多くがマニア向けの販売にとどまっていた。当然,テレビもローカル局での短期間放映が中心だった。

 ところがポケモン以降,状況は大きく変わった。現在,全米で30以上の日本のアニメ・シリーズが放映中である。そのうち「ポケットモンスター」「デジモン・アドベンチャー」「モンスターファーム」などは大手ネットワークでのテレビ放映だ。さらに日本で大人気の「おジャ魔女どれみ」も,全米で放映される予定になっている。

 ちなみに7月21日に米国で封切られたポケモン映画の第2弾「ポケモン・ザ・ムービー2000(邦題:幻のポケモン ルギア爆誕)」は全米興行成績の3位に躍り出た。米国での日本製アニメ人気は本物なのだ。

全米を虜にした日本のアニメだが,ハリウッドにあって日本にないものが・・・

 米国という巨大マーケットへの参入を果たしたことで,日本のアニメ産業が今後大きく成長することは間違いない。だが,つい最近までそう言い切れなかった。その理由は,映像産業として必要な要素が日本には欠けていたからだ。その要素とはシステマチックな資金調達方法である。

 一般に産業の3要素として「ヒト」「モノ」「カネ」が挙げられる。日本のアニメ産業は,この3要素のすべてに乏しい。とりわけカネについては厳しい状況が続いてきた。逆に言えば,カネの問題さえ片付けば,ヒトとモノについての不安もなくなるのである。

 米国における映像産業は巨大であり,世界のマーケットを相手にビジネスをしている。特にハリウッドを擁する南カリフォルニアでは地場の有力産業になっている。

 チェース・マンハッタンやパリバといった米国の大手金融機関は,優秀な専門スタッフを配したエンターテインメント・ファイナンス部隊を抱える。こうした大手以外にも,ユニオン・バンクやシティー・ナショナル・バンク,インペリアル・バンクといった日本の地銀に相当する米国金融機関が,積極的にファイナンスに取り組んでいる。このように,ハリウッドでは金融機関による盤石なサポート態勢が約束されている。

 一方,日本ではアニメ製作会社に限らず映像製作会社は,資産を持たないことで,金融機関から不当に評価されてきた。映画フィルムは2年で償却する資産なので,バランスシートに残らない。ヒット作を多数製作し,ロイヤリティ収入を継続的に得ている会社であっても,不動産や株式といった「見た目の資産」がないため,すんなりと融資実行に結び付くことは少なかったのである。

富士銀行がアニメ産業向けのファイナンス手法を開発

 こうした状況を変える本格的なアニメ産業向けの資金調達方法が国内にも登場した。開発したのは富士銀行のニュービジネス支援室だ。まず「融資」の仕組みとして「成功報酬型著作権担保ローン」を今年1月に作った。このローンは,既存のアニメ作品の著作権を担保にして,新作アニメの製作費を融資するのである。

 融資の仕組み上,成功報酬部分の評価対象となるのは,新たに製作するテレビ・アニメの“稼ぎ”である。新作のキャラクタ・ビジネスなどによるロイヤルティ(ライセンス料)収入が,事前に協議して設定した目標金額より多かった場合は,富士銀行に支払う金利は多くなる。一方,設定した金額に届かなかった場合は,金利負担が軽くなるのだ。

 さらに信託受益権を利用した「投資」によるアニメ製作会社向け資金調達方法も8月に開発している。信託受益権を使う仕組みは,一見複雑に思えるが「ロイヤルティ収入を信託財産として,そこに投資する」という極めてシンプルな内容である。間接的とはいえ,「会社」にではなく「作品」そのものに投資しているのが特徴だ。富士銀行は受益権を証券化して,投資家向けに販売することも視野に入れている。ちなみに,この仕組みはゲーム・ビジネスや音楽ビジネスに応用できる。

 また,富士銀行は金融機関ならではのネットワークを利用したアニメ産業向けビジネス支援サービスも開始した。

 アニメ・ビジネスのベースとなるのは,作品のキャラクタを使った商品化や広告キャンペーン利用などによるロイヤルティ収入。そこで富士銀行は,同行取引先のネットワークを活用して,キャラクタを使ってくれそうな企業を掘り起こそうというのだ。作品の著作権を保有するアニメ製作会社は,キャラクタのライセンスが売れれば,ロイヤリティ収入が入り経営が安定する。経営が安定すれば,富士銀行の金融リスクは軽減される。まさに一石二鳥の取り組みなのである。

 富士銀行が,こうした積極策に出ているのには理由がある。同行はアニメなどのコンテンツ・ビジネスを,IT(情報技術)革命における最上流の産業と位置付けているのだ。

 アニメ産業がハリウッドの映画産業と同様にビッグ・ビジネスになるインフラはできつつある。後は優秀なプロデューサが,このインフラをいかに使いこなしていくかにかかっている。