この記事の見出しをご覧になって首をひねった方が多いのではないか。「あれ,東京三菱銀行とUFJ銀行の合併は延期になったのではないか」と。確かに,8月5日付の全国紙を見ると,両行はシステム統合のテストを継続するため,10月1日に予定していた合併を2006年1月以降に延期することを決めた,と書いてある。この決定は8月4日になされたそうだ。

 しかし両行のWebサイトを見ると,8月7日の段階でも,「10月1日合併します」という文字がトップページに大きく掲載されている。つまりまだ,正式に延期を決めたわけではない。山場は今日,8月8日なのである。本日,東京三菱銀とUFJ銀は,金融庁に対し,合併プロジェクト(情報システム統合を含む)の状況および金融庁の要請に基づく改善結果などを報告する。そして今日の段階でも「10月1日に合併できます」と報告する可能性が大きい。

 日経コンピュータ8月8日号23ページの記事「金融庁が再度,東京三菱-UFJに横やり」を読むと,「情報システムの観点では,東京三菱とUFJの両行が金融庁に対し,統合を延期すると報告する可能性は極めて小さい」と書かれている。筆者が関係者に8月5日に聞いたところ,「移行判定基準と現状を照らし合わせると大きな問題は見あたらないので,10月1日の合併をする,と報告せざるをえない」と日経コンピュータの報道と同じ見方をしていた。

金融庁の過剰なテスト要求はもはや因縁

 なんとも奇妙な事態と言える。原稿を書いている筆者自体,何かの間違いではないかと思ったりする。気を取り直して金融庁の指摘と,東京三菱銀側の主張を整理してみよう。まず金融庁は,3月に実施した検査以降,一貫して東京三菱銀とUFJ銀のシステム統合作業に問題があると主張,それを理由に合併延期を迫ってきた。

 日経ビジネスの8月1日号に,「金融庁、三菱東京に強権 IT理由に統合延期の8月4日決定を迫る」という記事が掲載された。同記事によると,金融庁は「10月1日の合併を延期しろ。それを8月4日に決めろ」と東京三菱銀に事実上,命令した。

 この強硬姿勢に,東京三菱銀は困惑している。なぜなら,指摘された問題点は修正し,作業の遅れも取り戻したため,先に見たように,もともと作っていた移行判定基準に基づいて,合併の可否を判定すると「GO」になってしまうからだ。

 にもかかわらず,金融庁は延期を迫る。日経コンピュータの前掲記事によると金融庁は「システム統合において,修整変更がない部分についても徹底してテストしろ」と要請しているそうだ。今回のシステム統合は,両行の情報システムを接続し,外からは一つのシステムに見えるようにするもの。このため,両行の既存システムそのものは,あまり修整しない。修整しない部分については,さほどのテストをしないのが常識である。

 しかし金融庁は,常識破りの要請をしてきた。はっきり言って要請というより,因縁に近い。それでも,両行は,移行判定基準そのものを見直し,金融庁の非常識要請を取り入れないといけなくなる。「10月1日合併」を宣言する両行のWebサイトに,小さい字で「関係当局の許認可等を前提としております」と書かれているように,関係当局,すなわち金融庁が合併を認めないと,前に進めないからだ。

解散・総選挙になると金融庁トップも代わる

 さて,本日の報告の後,どのような展開になるのか。東京三菱銀は金融庁の求める非常識テストが10月1日までにできる,と言い張るのかどうか。

 実は,もはや何を言っても無駄という段階に来ている。仮に東京三菱銀が「そこまでのテストが不要」と主張したら,金融庁は「テストが足りないので,合併は認められない」と言うだろう。「10月1日までに(非常識)テストをやりとげます」と言っても,「時間が足りない。無理だ」と金融庁は言うに決まっている。つまり,金融庁は何が何でも,合併を延期させるつもりなのである。

 こうなると東京三菱銀としても,非常識と知りつつ,折れざるを得ない。本日8月8日には「10月1日合併」と報告し,金融庁の「NO」を受けて,8月8日の週のどこかで,延期を正式表明するつもりなのだろう。こういう考えが漏れ,「合併延期」の新聞報道につながったわけだ。

 ただ,ここに来て,政局が揺らぎだし,なんとも言えない状況になってきた。本日,郵政民営化法案が否決され,小泉首相が解散を決意したらどうなるか。東京三菱・UFJの合併予定日の10月1日には,金融担当大臣が交代していることになる。となると,東京三菱銀が本日のところは金融庁の「NO」を拝聴して帰り,数日後,「それでも10月1日にやります」と言い張ったら,面白くなる。

 金融庁が因縁を付けている真の理由は不明だが,筆者は,現在の金融担当大臣あるいは金融庁長官が「10月1日のシステム統合で何かあったら困る」と思っているからだとにらんでいる。政局が動けば,少なくとも金融担当大臣は10月1日の合併時に金融庁にはいない。それなら,たつ鳥は跡を濁さず,合併を認めてもよいのではないか。

(谷島 宣之=日経ビズテック・日経ビジネス・日経コンピュータ編集委員)