「商談43件のうち,(Microsoft製品に戻った)『Win Back』は7件,(戻ってもらえそうな)『Positive』は11件,(移行阻止が難しそうな)『Netgative』は9件,(移行の阻止ができなかった)『Lost』は15件,その他が1件」――マイクロソフトIT総合研究室マネージャの春原久徳氏は,「プラットフォームバリューの理解に向けた取り組み」と題した説明会(関連記事)で,“オープンソースへの移行阻止”商談の状況をこう明かした。

 マイクロソフトでは,電話セールスで判明した,オープンソース・ソフトウエアと競合状況にある顧客に訪問し,顧客の声を集めるとともに,「マイクロソフトの考え方をお伝えし」(同),マイクロソフト製品の採用を働きかける活動を行っている。

 対象はパソコン25台以上,1000台以下の中堅・中小企業である。43件の内容は,ファイル・サーバーが17件,メール・サーバーが7件,デスクトップのオフィス・ソフトが8件,その他Webサーバーやディレクトリ・サービスが11件。結果は冒頭の通りだ。一見勝率が悪いようにも見えるが「もともと負けていた案件を逆転できた率と理解してほしい」(春原氏)。そもそも,アポイントメントを取るのが困難だという。「電話しても,マイクロソフトに来ていただく必要はないと言われる」(春原氏)

 「オープンソースを採用,検討した理由としてはコスト削減がほとんど」(春原氏)。ある,PC400台を持つ都内の金融機関では,OpenOffice.orgを120台に導入している。経営層からコストダウンを迫られた結果という。OpenOffice.orgとMicrosoft Officeのマクロは完全な互換性はないが,自社で移植した。もちろん移行を検討したが,互換性がネックになり,Microsoft Officeの最新版へ移行することを決めた企業もある。しかし,OpenOffice.orgまたPC200台を持つある製造業では,Microsoft OfficeからOpenOffice.orgに移行したことに社員が3カ月間気付かなかったというコメントもあった。

 ただし,コスト面についてマイクロソフトでは「経営層は初期コストしか見ておらず,また顧客の社内技術者でサポートを行うのでTCOのメッセージが伝わりにくい」(春原氏)と見ている。

 コストの他には,マイクロソフト製品はクライアント・アクセス・ライセンスの管理工数がかかる,ライセンスを管理しきれずライセンス違反を起こしてしまうのではないか,という理由でオープンソース・ソフトウエアを採用したユーザーもいる。

 オープンソースの問題点としては「Linuxの設定は苦労が多い」「前任者がLinuxに詳しかったがやめてしまった」といったコメントもあった。ただし,リモートからGUIなしてキャラクタ端末ですべて管理できる点を高く評価するユーザーもいる。

 総じて「Linuxに対する理解は進んでおり,顧客は合理的に判断している」と春原氏は見る。

 商談を通じて感じたのは「WindowsとLinuxのどちらが優れているという話をしても顧客には響かない」(春原氏)という点だ。それよりも,ITで何ができるのか,これから何ができるようになるのかを聞きたがっている。例えば情報漏洩を防止するWindows Rights Management Services(RMS)やポータル機能Windows SharePoint Services(WSS),バックアップ機能に対する顧客の評価は高いという。

 場合によっては製品のカタログを持っていかないこともあるという。「細かなスペックを比較するのではなく,経営の課題をITで解決するための情報を提供していくことが重要」と春原氏は語る。

(高橋 信頼=IT Pro)