ターボリナックスは11月12日,デスクトップLinux「ターボリナックス ホーム」を発売する。従来,デスクトップLinuxのユーザーといえば技術者など上級者というイメージが強かった。しかし「ホーム」は家庭,パソコンの初心者という従来とかけ離れたユーザーを対象にする(関連記事)。初心者にとってLinuxを使うメリットは何だろうか。

「ターボリナックス ホーム」の
初心者向けメニュー
「ターボリナックス ホーム」
のイメージガール(左)と
代表取締役社長 矢野広一氏(右)
 初心者に向く理由としてターボリナックスがあげるのが,同社が作成した初心者向けメニューと,ウイルスに感染しにくいことである。

 しかし,初心者向けメニューはWindowsでもパソコン・メーカーにより試みられたことはあるが,次第に下火になった。初心者がOS選択の基準とするのは,身近にそのOSに詳しいユーザーがいるかどうかや,雑誌や書籍などによる情報が得やすいかどうか,といった点であることが多い。

 ウイルス感染は多くのユーザーにとって切実な問題であり,被害にあいにくいことはメリットがありそうだ。確かに現時点ではLinuxを対象にしたウイルスは少ない。

 ただし,それが初心者にとってOSを乗り換えるほどの動機になるかどうか,またハガキ印刷ソフト「筆ぐるめ」と日本語入力FEP「ATOK17」がバンドルされているとはいえ,税込1万6590円という価格に見合う価値と感じられるかどうかと考えると,ハードルは高い。

 もちろんターボリナックスも「とてつもなく高い山を登ることになる」(代表取締役社長 矢野広一氏)と家庭への浸透の難しさは自覚している。2004年4月に発売した,初級者向けという位置づけでマルチメディア機能に重点を置く「Turbolinux 10 F...」の販売件数は5000程度にとどまっている。これに対し,法人および上級者向けと位置づけている「Turbolinux 10 Desktop」およびその廉価版「Turbolinux 10 Desktop Basic」をあわせた,過去1年間の販売件数は約3万件だった。

 ターボリナックスでは,ホームの年間販売目標を「Turbolinux 10」と同レベルとなる3万件に置いている。その実現のために,質量ともに従来とは異なる販売手法をとる。

 まずLinuxとしては日本で初めて「イメージガール」を採用。アイドルを起用し,イベントやWebサイトなどでのプロモーションにより親しみやすさを訴えていく。

 すでにエプソンダイレクトやソルダム,東京フォレックスでTurbolinuxをプリインストールしたデスクトップ機を販売している。ターボリナックス ホームでもプリインストール・パソコンの販売を計画しているが,ターボリナックス 営業本部クライアントグループ部長 中尾貴光氏は「『ターボリナックス ホーム』はプリンタとのバンドル販売も計画している」と明かす。ハガキ印刷ソフトのバンドルにより,プリンタと組み合わせての家庭への浸透を図る。

 量的にも「従来製品の数倍のプロモーション費用を投じる」(財務担当取締役 CFO 岡田光信氏)。その裏付けとなるのが,同社の財務状況の改善だ。2003年通期の経常利益は約7000万円の赤字だったが,直近の4四半期は連続して黒字を計上しているという。2004年9-12月期も黒字を見込んでいる。

 ターボリナックスには,買わせる努力だけでなく,購入したユーザーの満足度を高めることも必要になる。初心者がLinuxを使う際の最大の問題の一つは,トラブルへの対応である。デバイスや周辺機器への対応でLinuxはWindowsに劣る。インストールや増設,利用の際にユーザーがつまずく原因になる。Linuxを評価したある企業は「マイクロソフトとターボリナックスのサポートのレベルはそう変わらない」と見るが,初心者ユーザーにLinuxに対する幻滅を抱かせないためには,そういったハンデを補う,より手厚いサポートや情報提供が望まれる。

 またターボリナックス ホームには,アンチウイルス・ソフトウエアがバンドルされていない。ニーズが少ないため,まだ大手アンチウイルス・ベンダーからデスクトップLinux向けの日本語版が提供されていないことが理由だ。しかし,初心者を対象にする以上,万が一Linuxを狙うウイルスが発生した際,ユーザーへの告知やサポートも徹底して行うことが求められる。

(高橋 信頼=IT Pro)