ITを高度に活用して経営を成功に導いている優れた中小企業を全国から選抜する「IT経営百選」プロジェクトがスタートした。経済産業省が今年度から3年間の期間で実施する施策「IT経営応援隊」活動の一つとして行われるもので、いわゆる隠れた名水を発掘し百選として認定するようなものだ。

 2001年から5年計画で進められているe-Japan計画は終盤に差し掛かっている。IT活用力を向上させて中小企業の競争力を高めることが重要課題と一つとして掲げられ、これまで多くの啓蒙セミナーやケーススタディなどが全国各地で実施されてきた。だが、それらによって中小企業の経営者にIT活用の重要性を認識させる効果はあったものの、ITを経営戦略としてとらえて積極的に投資をするといううねりを生むほどになっていない、という問題があった。このままでは、e-Japanの期限が終了しても中小企業の競争力向上という目標ははるか遠くになってしまう。

 そこで、経済産業省は、今年の7月、中小企業の経営改革をITの活用で支援する委員会、IT経営応援隊を立ち上げe-Japanの期限を1年超えて2006年までの3年間で中小企業の競争力向上に集中的に取り組むことになった。

 IT経営応援隊は、今年度2つの委員会を立ち上げた。ITを導入するための指南書となるIT経営教科書作成委員会、それと経営戦略・IT活用に優れた中小企業を発掘するIT経営百選選考委員会、である。

 最近、厳しい経営環境をものともせず最高益を更新したり、連続成長を遂げる中小企業がいくつも出現するようになってきた。こうした中小企業を見ると大手企業とは一線を画するビジネス・モデルを構築していたり、独自な経営改革を実践したりしているところが多く、しかもITがその成功を一体となって支えている、という事実が分かってきた。

 IT経営百選プロジェクトは、こうした経営戦略とIT高度活用を一体化させた優れた企業を発掘して表彰・公開。選出された企業の経営者にIT活用の伝道師となってもらって各地域の経営者の競争力向上意欲を高めることをねらっている。

 ITの戦略的活用に優れた企業としてセブン-イレブン・ジャパンや花王などが広く認識されているが、中小企業からみると企業規模がかけ離れている、かつ大手のビジネス戦略をマネしても意味がない、などの点から、実際問題として中小企業の直接の参考になるものではない。等身大の企業で21世紀の目標となる企業が世の中にいくつも存在することが広く認知されれば、身近に成功企業があることが分かり現実問題としてとられてもらえ、IT投資に真剣に取り組んでくれることが期待される。

 IT経営百選を選出するための募集要項はホームページ(http://www.itouentai.jp)にて10月初旬に公開される。我を、と思わん企業は応募要綱を読み、添付されている記入シートに企業内容や経営実態などを記入して11月末までに電子メールにて提出する(ouentai-oubo@ipa.go.jp)。

 特徴的なのは、記入シートに「自己評価シート」が含まれており自社を、ビジネス戦略・経営改革の視点、IT高度活用の視点の2軸で評価してそれぞれ100点満点で点数を付けて提出することである。全社のビジネス戦略・経営改革の視点は5つの評価項目(業績、ビジネスモデル、経営の自立化、経営のオープン化、満足度達成)、IT高度活用の視点も同じく5つ(コミュニケーション、営業・マーケティング、業務プロセスの高度化・連携、人材・ノウハウ活用・経営管理、情報セキュリティ対策)でそれぞれ20点満点で点数を付ける。20点のレベルは世界に誇れる成果が出ていることを条件としている。現状で20点を獲る企業はまずない。が、単なる選出基準として用いるだけでなく、中小企業が21世紀を勝ち抜くための将来の目標として認識できるようにとの目論見がある。

 応募されたシートの情報から1次選考して絞り込み、ヒヤリング対象企業を決める。2次選考は専門家が応募企業を訪問して事実の確認と補足を行い自己評価を修正、2005年2月中にIT経営百選の選出企業を決め、3月に公表・表彰する予定である。

(日経BP社ベンチャー・サービス局 主任編集委員兼中堅中小企業IT化支援プロジェクトリーダー 上村 孝樹)