Sun Microsystems
社長兼COO
Jonathan Schwartz氏

 2004年6月28日,米サンフランシスコでJava開発者会議JavaOne04が開幕した。

 JavaOneは1996年いらい毎年サンフランシスコで開催しており,今年で9回目を迎える(ほか日本で2回開催)。Java技術の将来を知るためのイベントとして最も重要な地位にある会議である。

 イベント最初のプログラムは,2カ月前にSun Microsystemsの社長兼COOに就任したばかりのJonathan Schwartz氏(写真)によるジェネラル・セッション(基調講演)である。

 Schwartz氏のセッションのテーマは「Javaエコノミーの成長」。事例や製品だけでなく,Java技術を取り巻く経済成長の可能性の説明に主眼を置いた。Schwartz氏は現在38歳,マッキンゼー勤務を経てベンチャー企業CEOの経歴を持つ。自らマシンを操作してデモンストレーションを次々と見せ,経営ビジョンを売り込む様子は,大企業Sunの社長というよりベンチャー起業家を思わせる。氏の講演はこんな調子だ。Javaはあまねく遍在し,全てのモノを接続する。ネットワークは成長するものだ。ネットワークで結ばれたJava搭載のコンピュータや電子機器が至る所にあるユビキタス環境には,いったいどんなビジネス機会があるのだろうか──。

 普通の開発者会議では,技術の利用事例のデモンストレーションや,新製品,新技術の発表をショーアップし,参加者を元気付けようとする。Schwartz氏はそれだけでなく,Java経済の成長の可能性を説き,参加者の起業家精神に訴えかける。利用事例も新技術も,Schwartz氏にとってはJava経済の成長の可能性を示すための材料なのだ。

 Schwartz氏は次々と数字を挙げて,「Javaエコノミー」について語る。このセッションでは,Javaエコノミーの規模は「年間1000億ドル以上」と語った(同日のプレスリリースでは「1200億ドル(約13兆2000億円)」と表現)。これはエンタープライズ市場,携帯電話市場,ゲーム市場,PC市場,家電市場,自動車エレクトロニクス市場など,Javaがすでに普及した分野だけでなく,今後利用が進む分野の数字も含めて積み上げたものだ。例えば,携帯電話向けJavaのゲーム市場は30億ドルと見積もっている。

 Schwartz氏によれば,「ケータイの次はクルマ(ウォール街はまだ理解していないが)」ということになる。今後,インテリジェント化する自動車用ソフトウエアに大きな成長のチャンスがあるとする。氏の講演中,Siemens VDOのJavaベースのカー・ナビゲーション/エンタテインメント・システムを搭載したBMWのオープンカーが登場,その可能性を示した。実際,カーナビ・システムは自動車のインテリジェント化の中核的な役割を果たしており,すでにJava利用が進みつつある分野である。

 以上のように,同氏の戦略,講演スタイルはきわめてベンチャー企業的だ。すなわち,まだ開拓されていない大市場に乗り出そう,と客席に呼びかけたのだ。年間1000億ドルのビジネス機会があるのであれば,業績低迷が続くSunの復活はもちろん可能であり,さらに客席の中から何社かのベンチャー企業が登場するはずである。

 Java技術に詳しいエンジニアが多数集まるJavaOneで,こうした「ベンチャーのススメ」的な呼びかけをすることを,無謀と見るか,技術と経営を融合させた現代的なセンスと見るかは意見が分かれるところかもしれない。現時点では,ウォール街のアナリストはSunの戦略をまだ評価していない。Sunの業績はまだ改善の様子が見られないからだ。「ウォール街はJavaを理解していない。Java部門を売却しろと言う」(2004年2月に日本で開催のJava Technology ConferenceでのSchwartz氏の発言より)。そんな外野の声をよそに,Schwartz氏の指揮のもとSunは「Java経済」の成長と,それに伴うビジネス・チャンスをいち早く取り込むことに社運を賭けている。

 Schwartz氏が講演で見せた主な利用事例,製品/技術を下にまとめた。JavaOneでは,これ以外にも多数の新技術,新製品の発表があった。詳細は追ってお伝えしていく。

●Schwartz氏のジェネラル・セッションで登場した利用事例
・MedicTouch車の健康状態モニタリング・デバイス。指先に取り付けたデバイスで心拍数などを測定し,携帯電話などワイヤレス機器からモニターできる。
・QnextのJavaベースのメッセンジャー。
・Siemens VDOのJavaベースのカー・ナビゲーション/エンタテインメント・システム。BMWのオープンカーの実車が登場,デモを見せた。

●ジェネラル・セッションで発表した新製品/新技術
・Java Studio Creator。MicrosoftのVisual Basicのようなエントリー・レベルの開発者層をターゲットとする開発ツール。年間99ドルという価格で提供。
・Project Kitty Hawk。SOA(サービス指向アーキテクチャ)のための製品/サービス群。
・Project Looking Glass。Javaベースの3次元ユーザー・インタフェース。java.netでJRL(Java Research License)によりオープンソースとして公開予定。

(星 暁雄=日経BP Javaプロジェクト)