「米SCO Groupによる訴訟が日本の一般ユーザー企業に波及する可能性は低い。また,米IBMなどとの一連の訴訟についてSCOの勝ち目は少ない」――。コンピュータ法や知的財産法を専門とする弁護士の岡村久道氏は,米国時間3月3日にSCOが初めてユーザー企業を提訴したと発表した件(関連記事)に関し,IT Proの取材に対してこのような見方を示した。

 SCOは同社が権利を所有するコードをLinuxに流用したとして米IBMを提訴していたが,3月3日,初めてユーザー企業であるDaimlerChryslerおよび米AutoZoneを提訴した。岡村氏は「日本国内でのLinux使用に関して,米国の裁判所に提訴することは難しいし,わざわざ日本の裁判所に提訴することも考えにくい。それと比べて訴えやすい米国企業を差し置いて,日本の一般ユーザーに訴訟が波及する可能性は低い」という。

 SCOとIBMの訴訟に関して「問題のコードが明らかにされていない現段階では不明な点が多いが,SCO Groupが勝つ可能性は低い」と見ている。BSD系のコードも参照されて作られているLinuxが,BSDからの流れも汲む同社UNIXと似ていることは不思議ではないこと。SCOは以前にGPLに従ったLinuxディストリビューションを開発・公開しており,自分たちのコードが含まれていたら当然分かっていたであろうことが,その理由だ。

 「また,たとえ侵害個所があったとしてもコードを置き換えることでLinuxの配布は継続できると考えられ,配布差し止めは失敗に終わる可能性が高い」(岡村氏)

「ユーザーはLinuxを使い続ける権利がある」――米Columbia大学教授

 一方,Linuxの普及団体である米OSDLは,2月10日に発表したポジション・ペーパーの中で「LinuxユーザーはSCOの法的脅迫を無視すべき」と主張している。ポジション・ペーパーは,米Columbia大学でソフトウエア著作権法を専門とするEben Moglen教授が執筆したもの。

 現在,UNIXの著作権の所有を巡りSCOが米Novellを提訴しているが,ポジション・ペーパーでは「訴訟が解決したとしても,またどちらが勝利するかにかかわらず,SCOおよびNovellのいずれからもライセンスを購入することなく,ユーザーは依然として問題となっているLinuxコードを使う権利がある」としている。SCOは以前,GPLの下でLinuxディストリビューションを配布してきており「GPLはLinuxコードの利用,変更,コピーおよび配布の権利を認めているので,訴訟の結果がこれらの権利に何ら影響を与えることはなく,ユーザーは,SCOからもNovellからも追加ライセンスを購入する義務はない」と説明している。
(高橋 信頼=IT Pro編集)