日本通信は,12月24日からPHSによるWebアクセスを高速化する公開実験を始めた。同社の前払い制通信サービス「bモバイル・プリペイドサービス」のユーザー向けに2004年2月20日まで実施する。無償で提供する高速化ソフト「b-384」を用いることにより,ブラウザでWebページを表示するときの体感速度が最大384kbpsまで高まるという。

 日本通信は,PHS,無線LANなどの各種通信サービスを個人および法人向けに提供している。bモバイルはそのうち個人向けのサービスで,一定額を予め支払うことにより,一定期間,PHSパケット通信と無線LANが使い放題になる。PHSの通信カードは専用のものが提供されるが,無線LANはノート・パソコンが備える通常のIEEE802.11b仕様のものが使える。

 今回のトライアルに用いるb-384は,クライアント・パソコンがPHSで接続してWebページにアクセスする際の通信を様々な工夫で高速化している。「b-384」とこれまでに提供している接続ソフト「bモバイル」は,いずれも次のような方法を採っている。

(1)画像をまびく
(2)画像の圧縮・復元
(3)余分なタグの削除
(4)テキストの圧縮

 どちらのソフトもこうした機能を持っているが,b-384はbアクセスが持っているダイヤルアップ機能は備えていない。b-384はあくまでWebページの表示を高速化するソフトであり,ダイヤルアップはユーザーが手動で設定する必要がある。

 さて,(1)~(4)の方法では画像が多いWebページだと2~3倍になるが,文字量が多いページでは効果が少なく,平均では2,3割の高速化しか実現できなかった。そこでb-384は新たに3つの方法を用いて,さらなる高速化を図っている。

(5)TCPプロトコルの簡略化
(6)中継サーバーがWebページの全オブジェクトを一括取得
(7)中継サーバーでクライアントに送るデータの順番を並び替え

 これらはいずれも連携しあってPHS部分の通信を極力減らすものである。その,かなめとなるのが日本通信のデーター・センターに設置された中継サーバー(b-384サーバー)である。

 まず,(5)のTCPプロトコルの簡略化であるが,クライアント・パソコンからb-384サーバーのあいだの通信は,TCPのプロトコルのやり取りを省略して,高速化を図っている。クライアント・パソコンのWindowsに組み込まれているTCPのプロトコル・スタックの代わりに,b-384が持つ独自の簡略版TCPプロトコル・スタックを用いる。b-384サーバーでも簡略版TCPプロトコル・スタックも搭載していて,サーバー・クライアント間で簡略版TCPで通信する。この効果は大きく「b-384による高速化の半分程度は,TCPプロトコルの簡略化によるもの」(同社の福田尚久執行役員)という。

 簡略版TCPではクライアント・パソコンから表示したいWebサーバーにアクセスできないため,b-384サーバーがクライアント・パソコンに代わってWebサーバーにアクセスして,Webページに含まれるすべてのオブジェクトを取得する(6)。こうすることによって,帯域の狭いPHS部分でオブジェクトを取得するためにTCPのやりとりをたくさん発生させずにすむ。

 こうして取得したオブジェクトを,b-384サーバーは単純に受け取った順番にクライアント・パソコンに送るのではない。まずテキスト・データを優先的に送る。GIFやJPEGの画像はそのあとに送り,Macromedia Flashなどのその他のオブジェクトは最後に送る(7)。こうすることによって,ユーザーは,真っ先にそのページの文字情報によるコンテンツを確認できる。

 このようなb-384サーバーを核にした仕組みにより,b-384では高速化を実現している。逆にb-384サーバーが高負荷になってしまうと思ったように増速しないこともあり得る。今回の公開トライアルでは,個人ユーザーの利用パターンではb-384サーバーにどの程度の負荷がかかるのか見極めることも重要な目的の1つとなっている。

 b-384の公開トライアルの対象となるのは,「U100C」「U100」「U50C」「Bb’100-721」「Bb’50-721」のユーザー。WindowsNT 4.0を除くWindows98以降のパソコンが必要となる。クライアント・ソフトは同社のWebサイトから無償でダウンロードできる。

 なお,日本通信は公開トライアル終了後のb-384の扱いは,現時点では未定としている。法人向けには有料で提供しているため,個人向けにも有償提供になる可能性もあるという。

(和田 英一=IT Pro編集)