写真1●WebSphere Studio V5.1.1の画面
JSF(JavaServer Faces)に基づく開発機能をサポートする。Javaプログラムで使われるオブジェクト名が画面上にも記されている様子が分かる。
 日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)は、新たなJava APIであるJSF(JavaServer Faces、JSR-127)に対応したJava開発ツール「WebSphere Studio Application Developer V5.1.1(以下、WebSphere Studio V5.1.1)」を12月9日より提供開始する。Webアプリケーションの開発をVisual Basicライクなビジュアル開発で行えるようになる。価格は14万3000円から。

 JSFは最新のサーバーサイドJava技術で、Webアプリケーションの生産性向上や、開発者層の拡大につながるものと期待されている。HTMLで構成するWeb画面のユーザー・インタフェースの構築を、Servlet APIやJSP(JavaServer Pages)を使わず、より短い記述で開発できるようにする。JSFに対応した開発ツールを使えば、Webアプリケーションを、画面上のコンポーネント群とJavaプログラムを結びつけていくVisual Basicライクなやり方で開発できるようになる。

 JSF対応の開発ツールとして、先に米Sun Microsystems社がJSF対応の新開発ツール「Java Studio Creator」(以前はProject RAVEのコード名で呼ばれていたもの)のプレビュー版を12月3日にリリースしたばかりである(関連記事あり)。こちらは、まだ正式版ではない。

 したがって、JSF対応開発ツールの製品化は世界でも初めてといえる。ただし、JSFは、Java技術の標準化団体JCP(Java Community Process)での作業が現在Public Review Draft2と呼ぶ段階にあり最終版(Final Release)ではない。そのため、WebSphere Studio V5.1.1は製品版ではあるが、そのJSF機能は「テクノロジー・プレビュー」扱いとなる。つまりベータ版である。2004年前半にJSFが最終版として確定した後に、WebSphere Studioの正式機能として搭載する。

 SunとIBMのほか、米Borland、OracleがJSF対応の意向を表明している。JSFはいずれJava開発ツールで標準的な機能となることは確実だ。

 IBMのWebSphere Studio V5.1.1が、SunのJava Studio Creatorとどう違うかだが、まずSun製品がNetBeansがベースであるのに対し、IBM製品はEclipseがベースであることが挙げられる。もう一つの大きな違いは、データベースを扱う機能として、IBMが開発したWDO(WebSphere Data Object)を搭載することだ。

 WDOはデータベース(現状ではリレーショナル・データベース)を抽象化する。この技術は、IBMとBEAが標準化団体JCPに対してJSR-235 Service Data Objects(SDO)として提案中である。つまり、将来はJavaの標準技術となる可能性がある。日本IBMでは「標準化を先取りして製品に搭載した」と説明する。

 JSFとWDOを併用することで、データベースを扱うWebアプリケーションを従来に比べはるかに高い生産性で開発することが可能となる。記者発表会でのデモンストレーションでは、ごく短いJavaプログラムとWeb画面とを結びつけ、データ検索アプリケーションを手早く作れる様子を見せた。

 同社は、このWebSphere Studio V5.1.1に、先行ユーザーが存在することも明らかにした。早稲田大学理工学部が、2004年初頭に開催するプログラミング・コンテストに利用する。また、清水建設は、現在JSFの開発の容易さや、同社の開発プロセスへの適合性などについて評価中である。

 さらに、記者発表会では同社の大和研究所が開発中の次世代技術「Faces Client」のデモンストレーションを見せた。JSF/WDOと組み合わせて使うことができる、Webブラウザ向けのリッチ・クライアント技術である。Webページと一緒に、WebブラウザにJavaScriptで記述したソフトウエア(JSコントロール)とデータモデルをダウンロードすることで、JSF/WDOによるアプリケーションの一部をより応答性良く実行する。例えば、ツリー・ビューの展開などを、いちいちサーバー側にアクセスすることなく実行できるようになる。このほか、Web画面上で入力支援機能を実現するデモンストレーションを見せた。カンマ自動付加、マスク付き入力(日付形式でのデータ入力など)、かな漢字変換の制御(IMEを自動的にオンにするなど)といった機能を実現する。これらの機能は、順次製品にも反映していく予定という。

 まだ仕様が最終版に至っていない段階ながら、JSFを試すことができるツール製品が2種類登場してきたことになる。今後、企業ユーザーによるJSFの評価が進むとみられる。

(星 暁雄=日経BP Javaプロジェクト)

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