写真●左から三井物産の上野昌章ZebOSチームリーダー,吉川欣也米IP Infusion副社長,石黒邦宏 同CTO
左から三井物産の上野昌章ZebOSチームリーダー,吉川欣也米IP Infusion副社長,石黒邦宏 同CTO

 「ルーターといえば,ソフトとハードが一体になったものというイメージが定着している。Ciscoが作り上げたイメージだが,当社は“ソフト・ルーター”を広めたい」――こう米Cisco Systemsにライバル意識を見せるのは,米IP Infusionの吉川欣也(よしなり)副社長(写真中央)だ。

 IP Infusion社は吉川副社長と石黒邦宏CTO(写真右)が米国で起業した,ネットワーク・ソフトウエア開発会社。石黒CTOが開発したルーティング(経路制御)用プログラム「GNU Zebra」を商用化し,「ZebOS(ゼボス)」として2002年夏から販売している。日本国内では,2003年7月から三井物産が販売する。

 ZebOSをLinux,Solaris,FreeBSDのマシンにインストールすることにより,ルーターとして使える。ハード一体型のルーターに比べて,低コストで実現できるのが最大の利点である。例えば,Cisco社の中~大規模オフィスあるいは小規模ISP用のルーター「Cisco 3640」は100M Ethernetのインタフェース・モジュールを1枚入れた構成でも,200万円近くする。ところがZebOSを用いたソフト・ルーターであれば,40万円程度で同等以上の性能を発揮する。性能的には,特に64バイトなど短いパケットのときにZebOSのソフト・ルーターはCisco 3640よりも高いスループットを出すという。

 もともとルーターはSunなどのワークステーション上で,ルーティング用プログラムを稼働させることによって実現していた。それが専用ハードウエアを用いることによって,高速化し,現在のようなハードとソフトが一体となったルーターが主流となった。

 ところが,「パソコンの高速化,信頼性の向上,回線サービスのLAN化によって再び,ソフト・ルーターが優位性を発揮できる環境が整ってきた」(吉川副社長)。回線サービスのLAN化というのは,従来の専用線に代わって,LANケーブルでWANを利用できるようになってきたということ。専用線ではX.21やX.35といった,パソコンとしては特殊なインタフェースが必要となる。こうしたインタフェースは例えば前出のCisco 3640といったインタフェース・ボード差し替え型のルーターには用意されている。広域イーサネットを使えば,LANに接続する形なので,パソコン用に特殊なインタフェース・ボードを用意する必要はなく,LANカードで済む。「LANカードの性能はスループットに大きく影響するが,マザーボード上に備え付けのLANポートであっても,Cisco 3640よりはいい性能が出る」(石黒CTO)。

 三井物産でZebOSを扱う,情報産業本部 ITサービス事業部 ZebOSチームの上野昌章リーダー(写真左)は,「Cisco社のゴールド・リセラーが真剣に問い合わせてくるようになってきた」と手応えを感じている。三井物産はハードウエア・ベンダーと組んで,各社のサーバーにZebOSを搭載して,アプライアンスとして販売する考えだ。

 ZebOSは海外ではすでに70社近くが導入している。非商用版のGNU ZebraはもともとIPv6用のルーティング・プログラムとしてよく利用されていたが,IPv6版のZebOSが使われることはまだほとんどないという。

 なお商用版のZebOSには,1年間のサポートとMPLS,VPN,冗長構成など非商用版のGNU Zebraにはない機能が加わっている。ZebOSの対応OSはLinux,Solaris,FreeBSD。Windows版の開発も進めている。ZebOSの価格はIPv4版,IPv6版それぞれ39万円。

(和田 英一=IT Pro)