写真●米Sun Microsystems社会長兼社長兼CEOのScott McNealy氏
 JavaOne2003最終日の6月13日。米Sun Microsystems社会長兼社長兼CEOのScott McNealy氏(写真)は、基調講演の演題に立った。

 McNealy氏は「SunはJavaで儲けている訳ではない。Javaをビジネスに使っているのだ」と話す。「英語を使うことで税金を取られないように、Javaそのもので儲ける訳ではない」。そして、ソフトウエア産業の形態が変わるとの見方を示した。「もうシュリンクラップ・ソフトウエアの時代ではない。携帯電話はプラスチックにラップされたソフトウエア。サーバーは、ラックにラップされたソフトウエアだ」。以前と違い名指しこそしないものの、参加者にとっては、これは「もはやシュリンクラップ・ソフトウエア最大手のMicrosoftの時代ではない」、というメッセージであることは明らかだった。

 さらに、McNealy氏お得意のジョーク企画として、JavaとMicrosoft.NETを項目別に評価した「成績簿」を見せ、「.NETは落第だ」と決めつけた。項目は、協調性、モビリティ、スマート・カード対応、選択肢、成熟度、RAS(信頼性/可用性/保守性)、マーケケティング、革新性、入手の容易さ、移行の容易さ。ちなみに、.NETの方がJavaより高得点だった項目は「マーケティング」だけである。.NETの評価は「A」、ちなみにJava技術のマーケティングの評価は「F(落第)、ただし改善中」だった。Javaの総合評価は「B」で、改善の余地があるという意味も持たせた。

 「英語と同じだ。Javaで儲けているのではなく、Javaをビジネスに使うのだ」という言い回しはMcNealy氏の持論だが、今回は違って聞こえる。SunがJavaOne2003で打ち出した戦略がきわめて刺激的だったからだ。

 記者の見方では、今回打ち出した戦略の本当の狙いは「Java技術の影響力をSunのビジネスに結びつける」ことだ。この戦略は、Java開発者を味方にしない限り意味がないが、JavaOneで会場を埋めた開発者たちは拍手で答えた。McNealy氏の言葉に自信が感じられたのはそのせいだ。

 従来のJavaOneでのSunのメッセージには、「Sunは裏方。皆さんが技術開発やビジネスを展開してください」という響きがあった。この言い方では、Sunという会社がJava技術で果たす役割や責任はあいまいだ。

 今回のJavaOne2003のメッセージは違う。「SunはJavaでビジネスをする。皆さんも一緒に競争しよう」とはっきり宣言したのだ。Sunの武器は、Java技術の影響力である。この武器を元に、今までの不得意分野である小規模システム構築市場やデスクトップ市場、さらにコンシューマ市場に進出しようとしている。名指しこそしなかっったが、SunはMicrosoftの得意分野を狙っているのだ。

 例えば、小規模システム構築分野への働きかけは、新技術JSF(JavaServer Faces、JSR-127)を搭載した開発ツールProject RAVEである。Project RAVEのインパクトは、単にSunから一つの製品が出てくることだけではない。JSFは標準APIであり、いずれ各種Java開発ツールで取り入れられることは自明だ。だが、Project RAVEという製品をいち早くアナウンスすることで、結果として新技術JSFの認知が進み、他のツール・ベンダーがJSF採用ツールを製品化する動きも促進するだろう。実際、開発ツール大手のBorlandと、自社製ツールを持つOracleが、JSFの取り入れを表明している。

 Sun自身の開発ツール分野でのシェアは大きくない。通常、市場シェアの低いベンダーが影響力を行使するということは考えられない。だがSunは、標準Java APIをいち早く取り入れたツールを開発するというやり方で、開発ツール全体の進化を促し、市場を活性化させるという影響力を持つことができる。Java開発ツール市場全体が大きくなれば、結果として、Sunの開発ツールの売り上げも増えるだろう。

 実は、JSFの仕様は正式版ではなく、標準化直前の「2回目のパブリック・レビュー」という段階にある。だが、この段階から製品化へのアナウンスをすることはソフトウエア産業ではむしろ普通のことだ。逆に言えば、仕様が固まる前の段階から製品をプレビューするやり方でなければMicrosoftへの対抗策とはならない。

 そして、デスクトップ市場への働きかけとして、PCへのJava標準搭載がある。HPとDellが、新規出荷する全PCにJVM(Java実行環境)の標準搭載を発表した。これによりPCのシェアの過半を抑えることになる。同様のJVM標準搭載の働きかけは、IBMや日本企業を含めてすでに進行中で、PCへのJVM標準搭載の動きは今後も続きそうだ。このほか、AppleがMac OS XにJVMを標準搭載していることは周知の事実だ。JavaOneの場では「PC産業がJavaを理解した」(Jonathan Schwartz執行副社長)と表現した。PC産業とはほとんど縁がなかったSunだが、すべてのPCに最新のJavaが載ることで、SunはPC産業に対する影響力を持つ立場になったのだ。

 デスクトップPCで最新のJava環境が使えることのインパクトは大きい。まず企業システムでは、リッチ・クライアントをJavaで構築するうえでのハードルが低くなる。ソフト配布技術としてJava Web Startと呼ぶ技術がすでにあるので、JVMさえPCに載れば、Javaで開発したクライアントを配布することは容易だ。Javaベースのリッチ・クライアントを開発する機運も高まりそうだ。さらに、コンシューマ市場も狙っている。「デスクトップPCで、さまざまなコンテンツを配信するニーズは大きい」(Schwartz執行副社長)

 今、Sunは文字通り「Javaを使って」ビジネスをしようとしている。その結果は、Javaベースの企業システム、サーバー、クライアント、それにコンシューマ市場での利用につながる。これらは、全体としてSunのコア・ビジネスであるサーバー市場のパイを広げる役割を果たす。最近のSunの株価の低迷にも関わらずMcNealy氏が見せた自信の背景には、こうした戦略がある。

(星 暁雄=日経BP Javaプロジェクト)