NTTコミュニケーションズは,同社を含めた5社のインターネット接続事業者(ISP)4社で実施したIP電話の相互通話共同実証実験の成果を3月6日,発表した。半数以上のモニターから一般電話並みかそれ以上の音質という評価を得たが,ユーザー宅までの回線品質とともに,電話機の接続装置のチューニングも重要なことが分かった,という。

 実証実験は2003年1月29日から2月28日までの約1カ月間行われた(関連記事)。参加したISPはNTTコミュニケーションズのほかに,So-netのソニーコミュニケーションネットワーク,@niftyのニフティ,BIGLOBEのNEC,Panasonic hi-hoの松下電器産業である。試験サービスには5社合わせて約4万人が参加し,約1万人からアンケートの回答を得た。

 アンケート結果によると,IP電話から一般電話にかけた場合,回答者の3.7%が「一般電話以上の音質」,53.6%が「一般電話と同等の音質」と回答した。IP電話同士の通話の音質に対しても,同様の回答であった。つまり回答者の半数以上が,一般電話と同等かそれ以上という評価を与えていることになる。

 これよりも低い評価を下した層もある程度は存在する。IP電話から一般電話にかけた場合で「携帯電話と同等」(7.9%),「携帯電話以下」(6.7%),IP電話同士の通話で前者が8.3%,後者が5.1%という具合だ。いずれにせよ,1割以上の回答者が携帯電話並みか,それ以下の音質でしか,調査時点ではIP電話を利用できなかった。

 これに対して,NTTコミュニケーションズは,「時間帯によっても音質は変動するが,一番影響するのは(ADSLなどの)足回り回線の品質」とみている。一口にADSL回線といってもユーザーの環境によって,実効速度に差がある。Webブラウジングでは,ダウンロード速度しか影響しないが,IP電話ではアップロード速度も影響する。ADSLではダウンロード速度を確保するために,アップロード速度を絞っているため,双方向通信のIP電話だと,アップロード速度が響いてくるのだ。

 また,「通常の電話機をつなぐ接続装置のチューニングも音質確保に重要」(ブロードバンドIP事業部マーケティング部長の高瀬哲哉氏)だという。電話機の接続装置にはADSLモデム(ADSLルーター)と一体化したタイプと,ブロードバンド・ルーターの代わりに用いるアダプタ・タイプがある。どちらも通常の電話機を接続して,インターネット回線経由で通話ができるようにする。この接続装置のバッファの容量をチューニングすることが音質を確保する上で重要だという。

 バッファを大きくすると音の途切れはなくなるが,逆に遅延が大きくなり,会話がスムースに運ばなくなる。反対にバッファを小さくすると遅延は小さくなるが,音が途切れやすくなってしまう。実証実験を行うことにより,最適なバッファ容量を見つけることができた。

 バッファ容量はユーザーによる設定はできず,ファームウエアの書き換えを伴うという。このため,古いファームウエアの接続装置を使っているユーザーは,接続装置のファームウエアを自らの手で行わなくてはならない。「実証実験には,ネットに慣れた人が参加しているため,問題なくアップデートできるはず」としているが,ユーザー層が拡大した場合に,どのように機器のアップデートを行うかが課題になろう。

 また,長時間連続通話していると,通話が切れる可能性があることも認めた。長時間通話していると,セッションを管理しているタイマーがずれてきて,タイムアウトを起こし,通話が切れてしまうことが技術的にはあり得るという。ただし「実証実験では,そうした苦情は聞いていない」としている。

(和田 英一=IT Pro編集)