インターネット・インフラ提供会社のフリービットは,2003年3月5日から7月31日まで,次世代インターネット・プロトコルIPv6を用いた大規模実証実験「Feel6 Farm」を行う。今回,開発した「Feel6 Technology」を用いて,「日本のパソコンによるインターネット・ユーザーの8割以上がIPv6を利用できることを証明する」(同社の石田宏樹社長)と意気込む。

 Feel6 Technologyは,インターネット接続事業者(ISP)によらず,簡単な操作でIPv6を利用できるようにすることが狙い。これまでも10社以上のISPがIPv6の接続サービスを試行または商用で提供している(関連記事)。ただし,サービス申し込みが面倒,通常のIPv4によるインターネット接続よりも割高,設定が煩雑といった課題があった。これに対してFeel6 Farmでは,オンラインで申し込み,無料で,専用ソフトにより簡単にIPv6を利用できる。

 また,IPv6の接続サービスを提供していないISPのユーザーであっても,グローバルIPアドレスを利用できれば,Feel6 Farmに参加できる。IPv6接続サービスを提供しているISPは大手がほとんどであるため,Feel6 Technologyにより,IPv6の潜在ユーザーのすそ野が広がることになる。

 Feel6 Technologyは,IPv6に接続したいクライアント・パソコン「Feel6 Client」と,IPv6網への接続点となるゲートウエイ「Feel6 Server」で構成する。フリービットは,Feel6 Clientのために専用ソフト「BitBasket6」を提供する。対象OSはWindows XP Service Pack1とMacOS X 10.2。Feel6 FarmのWebサイトから無料でダウンロードできる。

 Feel6 Serverには,Feel6 Farmの協力会社の1つである日立製作所のIPv6対応ルーター「GR2000シリーズ」を用いる。Feel6 Farm用にカスタマイズした。

 BitBasket6を用いて,Feel6 ClientからIPv6網に接続するためには,「IPv6 over IPv4トンネリング」と呼ぶ技術を用いる。Feel6 ClienとFeel6 Serverとの間では,IPv6のパケットをIPv4のパケットの中に埋め込んで,IPv4のパケットとして伝送するものだ。既存のIPv6接続サービスでも広く使われている技術である。Feel6 ClientからFeel6 ServerまではIPv4の衣を被って,IPv4のネットワークを移動し,Feel6 ServerでIPv4の衣を脱ぎ捨て,IPv6の世界に入るというイメージである。

 ただし,他の接続サービスでは,クライアント側に固定のIPアドレスを用いることが多い。ところが,固定のグローバルIPアドレスを利用できるインターネット接続サービスは法人向けとして,非固定のサービスよりも高い料金設定になっている。この点が,IPv6を手軽に試してみることへの障壁になっていた。

 Feel6 Technologyでは,DTCP(Dynamic Tunnel Configuration Protocol)を用いることによって,非固定のIPv4アドレスからでも,IPv6 over IPv4トンネリングを利用できるようにしている。

 IPv6を実際に利用するためには,IPv6による接続性だけでなく,その上で動作するアプリケーション・ソフトもIPv6に対応する必要がある。IPv6に対応したアプリケーションとしては,Internet Explorer,Windows Media Player 9シリーズがある。メール・ソフトではWinfiff,EdMaxが対応している程度。BitBasket6は,IPv6対応のPOP3メール・ソフトを含んでおり,メールも利用できるようにしている。

 また,サーバーからクライアントに情報を送り込むために「LRE(Live Reach Engine)」と呼ぶソフトウエアもフリービットが開発した。クライアント側ソフトはBitBasket6に含まれる。LREにより,サーバー側からメール着信を通知したり,ニュースを随時配信できる。

 LREのようにインターネット側からクライアントにアクセスできる点が,IPv6のメリットの1つである。ところが,自由にインターネットからアクセスできるとなるとセキュリティ面でも不安がある。そこで,Feel6 Farmでは,Feel6 Serverでインターネットからのアクセスを制限する,フィルタリング機能を備えた。セキュリティのレベルはユーザーがWebブラウザ上で4段階設定できる。

 ここまでは,Feel6 Clientはパソコンという前提で話を進めてきた。これでは複数のIPv6対応機器を接続することはできない。複数のIPv6機器をつなぐ場合には,Feel6対応のブロードバンド・ルーターを用いる。ヤマハのブロードバンド・ルーターNetVolante「RTA55i」がFeel6に対応することを明らかにしている。Feel6対応のファームウエアにバージョンアップしたRTA55iの配下にIPv6対応機器を接続すれば,IPv4のインターネット接続サービスを利用して,IPv6網に接続できる。

(和田 英一=IT Pro)