台湾Network Information Center(NIC)の陳文生・事務局長

 「台湾は2008年までに,インターネットのIPv6完全移行を果たす」とアグレッシブな政府目標を明らかにしたのは,台湾Network Information Center(NIC)の陳文生・事務局長(写真)。台湾政府は2002年8月から「e-Taiwanプロジェクト」を始動。その中でインターネットのIPv4からIPv6への移行スケジュールを明記。2007年にはIPv6に完全に置き換えるとしている。

 「これは実現が容易ではない,チャレンジングな目標だ」と陳事務局長は,顔を引き締める。何しろ世界に先駆けての政府目標である。日本政府が「2005年までに世界最先端のIT国家となる」とぶち上げたe-Japan戦略,そしてそれを補強する「e-Japan重点計画-2002」(2002年6月18日発表)では,IPv6への移行はうたうものの,完全移行時期を明示するまでには至っていない。

 e-Taiwanプロジェクトの中で述べられた,台湾インターネットのスケジュールは以下のようなものである。

  • フェーズ1(2002年内):IPv6運営委員会,IPv6フォーラム台湾の立ち上げ
  • フェーズ2(2003~2005年):IPv6への移行技術の開発ならびにネイティブIPv6ネットワーク環境の開発
  • フェーズ3(2006~2007年):IPv4をIPv6に置き換え国全体のIPv6ネットワークを完成させる

 「2002年は組織を立ち上げただけ。実質的な活動は2003年から始まる」(陳事務局長)。2003年2月には第1回の「Global IPv6 Summit in Asia Pacific」を台北で開いて,勢いを付ける。

 陳事務局長によれば,台湾でのDSLを中心としたブロードバンド回線は,2002年末で200万人,2007年末には600万人に普及するとみている。台湾の人口は約2200万人なので,2007年末には27%がブロードバンド接続になる見込みだ。2005年までに少なくとも4000万人に高速・超高速インターネット接続を普及させるとするe-Japan戦略と比べると,実数,普及率とも日本が上回る。

 しかし,携帯電話の普及率では,台湾は日本をはるかに上回る。台湾での携帯電話の普及台数は2002年第1四半期で総人口を超え,現在は105%に達しているという。「第3世代携帯電話では,携帯電話にIPアドレスを振るようになる。そのときにはIPv4ではアドレスは足りなくなる。IPv6がどうしても必要になる」と,陳事務局長はその必要性を強調する。

 e-Taiwanプロジェクトは,IPv6だけではなく,eライフ,eコマース,e政府(電子政府),eトランスポーテーションという4本柱に支えられた包括的な政策である。日本や韓国などのIT政策を参考に立案したという。同席した台湾の交通部電信総局,高凱声・副部長は「小さな国は宝。2番手は1番」と笑う。小さな国土なら,2番手あっても瞬く間に,世界のトップに立てるというわけである。少なくとも,それは高副部長が担当する携帯電話では実現している。

 台湾政府は期間中の6年間で,260億台湾ドル(約905億円)の資金投入を予定している。しかし,陳事務局長は「台湾ではまだ民間企業の参加は少ない」と,多くの民間企業が参加する日本のIPv6推進協議会をうらやましがる。

 だが“世界の工場”台湾では,メーカーもじわりと動き出しているようだ。「ソフトウエアではなく,ハードウエアでIPを制御する“シリコンIP”のIPv6版が来年には出る。IPv6に対応したSOHO向けルーターを開発中の企業も2社ある」と台湾の工業術研究院,コンピュータ通信工業研究所の王輔卿・副所長は明かす。世界の工場がIPv6に向かってまい進を始めたとき,IPv6は我々の日常に溶け込んでくるのかも知れない。

(和田 英一=IT Pro)

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