今年も9月1日「防災の日」がやってくる。災害時に,家族など身近な人と連絡が取れなくなると大変不安になる。自分自身が災害に巻き込まれることもあり得る。携帯電話などですぐに連絡が取れれば良いが,電話網の規制が行われて,直接電話がかかりにくくなることもある。

まず覚えておきたい「171」

 そんなときの連絡手段の一つとして,NTT東日本,NTT西日本,NTTコミュニケーションズが提供する災害用伝言ダイヤル171がある(「忘れてイナイ(171)? 災害伝言171」と覚えるそうだ)。普段は運用していないのだが,8月30日から始まった防災週間に合わせて体験期間が始まった。9月5日の午後5時まで,通話料だけで体験利用できる。

※ 3社のプレスリリース,基本的な操作方法のページはそれぞれ基本的に同じ内容である

 使い方は簡単。音声メッセージを登録するには,「171」をダイヤルしてから,音声ガイダンスに従って,「1」をダイヤル。さらに自宅の電話番号などのキーとなる電話番号をダイヤル。最後に音声メッセージを30秒以内で吹き込む。

 再生する場合は,「171」をダイヤルしてから,「2」をダイヤル。登録した際に用いたキーとなる電話番号をダイヤルすると,登録された音声メッセージが新しいものから順に再生される。体験期間ではメッセージの保存期間は1時間限りなので,あらかじめ時刻を決めておいて,試してみる必要がある。災害時の実運用では48時間保存される。

 このように171の利用にあたっては連絡を取り合う人たちの間で,事前にキーとなる電話番号を決めておく必要がある。また電話番号が分かると誰でも聞けてしまうので,暗証番号付きで音声メッセージを登録/再生することもできる。

電話番号の下3ケタで負荷分散

 この災害用伝言ダイヤルは阪神・淡路大震災での教訓をもとに1998年3月31日から稼働しており,鳥取県西部地震や芸予地震などこれまでに11回の実運用があった。その間,約45万件があったという。また,昨年の防災週間には約3万7800件の利用があった。

 こうした災害時に,音声メッセージの保存場所が全国で1カ所しかないと,利用が殺到したときに使えなくなってしまう可能性がある。そこで音声メッセージの保存場所は全国約50カ所に分散させている。キーとする電話番号の下3ケタでいずれかのメッセージ保管場所に振り分けて,運用する。災害時に特定の市外局番がつながりにくくなっても,下3ケタで全国に振り分けられるために,災害用伝言ダイヤルで電話回線がパンクすることは,ほとんどないと考えられる。

インターネットを使った安否確認システムも

 171のような音声による安否確認システムだけでなく,パソコン,iモードを使ったインターネット・ベースの安否確認システムもある。その代表的なものが「IAA(I am alive)」である。WIDE Project,通信総合研究所などが研究・開発を進めている。IAAも,今回の防災週間に合わせて体験利用できる。

 IAAも1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに研究が始まった。その年のうちにWIDE Project内で研究がスタートし,1999年からは通信総合研究所の非常時通信研究室(当時)も加わって開発を進めている。1996年から毎年,訓練(公開試験)を続けてきている。

 IAAの基本的な使い方は,登録者が氏名をキーにして,生存/軽傷/重傷といった“状況”,どこに避難しているかなどの情報を入力する。検索者は名前(漢字,読み,ローマ字のいずれか)を元に検索して,知りたい人の情報を手に入れる――といったものだ。パソコンからだけでなく,iモードなどからもWebベースで利用できる。

 171の災害用伝言ダイヤルと比べると,IAAはパソコンや携帯電話を操作できないと利用できない,これらの機器の電源が必要だが,災害時に確保できるのか不安,iモードが使える状況なら171が使えるはず――といったデメリットがあることに気が付く。では,IAAのメリットはなんだろうか。

 まず,災害後の通信回線の復旧状況によっては,電話よりも先にインターネットが利用できることもある。避難所などで紙で情報を集めて,一括登録するといった運用にも向いている。メッセージは30秒以内,保存期間は48時間という171の制限はない。インターネット・ベースなら海外からも安否確認ができる。また,171以外の安否確認手段があるということも重要だろう。

2つのシステムを相互接続する試み

 今回の防災週間では,IAAは平成14年度練馬区・東京都合同総合防災訓練において利用される。この総合防災訓練は,IAAを利用するだけでなく,IT取材ボランティアがデジタル・カメラやカメラ付き携帯電話などで訓練の様子を取材・情報発信したり,家族の一員ともいえるペットと一緒に避難する訓練をしたり,災害時に交通網が寸断されたことを想定して家まで歩いて帰ったりといったユニークな活動が盛り込まれた訓練である。

 IAAでは9月1日から1週間程度,公開試験を行う(ページはこちら)。今回の公開試験では,これまでにない新しい試みがある。別々に実装された「MonsterIAA」と「NetStarIAA」という2つのIAAシステムを相互接続して,運用するのだ。

 両IAAシステムは物理的に異なる場所に置かれている。公開試験時には,両IAAシステムの入り口が表れる。利用者はどちらかを選んで情報を登録する。基本的な入力項目は両者で共通しているが,詳細情報の項目は異なっているのだ。片方のシステムで入力した基本項目は,もう片方のシステムにも登録される。このため,検索時にはどちらのシステムを検索しても,見つけることができる。詳細項目については,入力側ではないシステムでは表示されないが,入力側システムへのリンクが表示されるので,それをたどって確認することができる。

 負荷分散という点では,それぞれのシステムで,複数台のサーバーが稼働している。利用者がアクセスのためにDNSを引いたときには,毎回違うサーバーのIPアドレスを返すことによって,アクセス先を分散させている。

 なお,IAAの研究者たちは8月27日,「IAA Alliance」と呼ぶ団体を発足させた。学術団体,政府機関,産業界などの横断的組織とし,IAAのさらなる普及,開発促進を目指すという。会長は通信総合研究所,非常時通信グループの大野浩之氏が務める。スタート時で12の団体/個人が会員となる。今後,広く団体/個人の会員を募っていくという。

良心頼みの一面も

 171にしろIAAにしろ,どちらも善意に基づいたシステムである。意図的あるいは意図しないで間違った情報を入力しても,判別がつかない。利用者の良心に頼るというのが実状である。本人確認のために複雑なシステムを導入しても,多くの人がいざというときにそれを使いこなせないと無意味になってしまうということもある。試験運用を続けて,最適解を探って行くしかないだろう。

 また,個人情報を登録するとプライバシを他人にさらすことになる。避難所などでの一括登録に際して,ごくまれに他人に所在を知られたくない人もいる。例えば,借金取りに追われている人などだ。情報元の人が許可した人に対してだけ,情報を開示するような配慮も必要になるのかもしれない。このように悲しいかな災害時の実運用時になってみないと分からないという点もある。経験を積み重ねて,利用者/利用しなかった人が,どんどんコメントを寄せてフィードバックをかけてあげる必要があろう。

 阪神・淡路大震災の悲痛な経験から,こうしたITを活用したシステムがはぐくまれてきた。せっかくのシステムも,どのように使うのかをあらかじめ決めておかないと意味がない。防災週間のこの機会に一度,家族や職場など身の回りの人たちと話し合われ,“IT防災訓練”を実施してみてはいかがだろう。IT防災訓練は訓練会場に出かけて行かなくても,できるのだから。

(和田 英一=IT Pro編集)