「2002~3年はIPv6の“立ち上がり期”,2004年から“本格的普及期”に入る」――総務省の諮問機関である情報通信審議会はこのようなIPv4からIPv6への移行シナリオを作成した。本格普及期は2006年まで続き,2007年以降は“発展期”になるとしている。

 今後1年程度続く立ち上がり期には,ネットワーク機器,OS,アプリケーション・ソフトのIPv6対応が急速に進む。しかし,この時期はIPv6の普及率はまだ高まらない。しかし,本格普及期になると,各種システムがIPv6への対応を進め,普及率も上昇する。2007年以降の発展期ではIPv6によるトラフィックが増加する。

 これが情報通信審議会が描く全体的な移行シナリオである。このほかにメーカー等,ISP(インターネット接続事業者),家庭,企業,新分野,政府,国際連携という7分野について個別の移行シナリオを作成した。同審議会がこうした移行シナリオを作成したのは,IPv6への移行を一部の専門家だけが議論するのではなく,社会全体として議論するための共通認識を醸成することが目的である。それぞれの主体が,共通の認識を持った上で,課題解決に当たることが重要としている。

ISPは3段階で移行

 ISPの移行については3段階のシナリオを描いている。第1段階ではトンネル方式でも良いから,早くユーザーにIPv6接続サービスを提供する。トンネル方式とは,ユーザーからISPまでの回線がIPv4にしか対応していなくても,IPv4のパケットにIPv6のパケットをくるむことによって,IPv4ネットワークを素通りさせて,IPv6ネットワークまで送り届ける方式である。

 第2段階としては,デュアル・スタック方式でサービスを提供する。デュアル・スタック方式とはIPv4とIPv6の両方のプロトコルが1台の機器で使える接続方法のことである。デュアル・スタック方式の商用サービスはインターネットイニシアティブ(IIJ),NTTコミュニケーションズ,パワードコムが提供している。この段階ではISP内部の一部でIPv6が使われることになるだろう。

 第3段階は,ISP内のネットワーク全体をデュアル・スタックで運用する段階である。この段階ではISP内のほとんどのルーターがIPv6に対応し,安定して動いていることになる。なお,比較的規模が小さく,IPv6導入が遅いISPでは,導入時点からデュアル・スタックで運用することも考えられる。

 ISPの移行シナリオの留意点としては,
・先行的にサービスを開始している事業者は,各社に共通するような運用ノウハウについては可能な限り公開する
・中小規模のISPではIPv6への対応遅れが目立っているため,これらのISPのIPv6対応を促進していく
・ISPだけでなくADSL事業者もIPv6への早期対応が必要
などの点を挙げている。

家庭ではパソコン用OSの対応は年内に

 今度は家庭での移行シナリオを見てみよう。まずパソコン用OSがIPv6に対応する。Windows系では,年内に発売予定のWindows XP Service Pack 1がIPv6に正式対応する。Mac系では,8月下旬に発売されるMac OS Xバージョン10.2で正式に対応する。このように家庭用パソコンではIPv6への対応が年内に急速に進むと見られる。

 つづいて,ISPへの接続をこれまでのIPv4に加えて,IPv6でもできるようにする。これまで商用サービスは高額だったり,実験・試験サービスは募集人員や期間が限られていたため,普及しているとは言えなかった。しかし,比較的安いサービスが登場し始めたので,今後の普及が期待されている。ISPに接続する際には,家庭内に設置するブロードバンド・ルーターもIPv6に対応する必要がある。

 家庭のパソコンがIPv6で接続するようになると,続いて,このインフラを用いて多種多様な情報家電が普及すると考えられる。

独自開発ソフトのIPv6対応が鍵となる企業

 企業のIPv6対応も,家庭と同様にパソコンから始まる。今年の冬モデルのWindows XPパソコンに組み込み済みのOSはWindows XP Service Pack 1なので,前述のようにIPv6に正式に対応している。このためパソコンの入れ替えのタイミングで,IPv6対応は進んでいく。ネットワーク機器やサーバーもシステム更新時期に合わせて,IPv6対応を進めていく。

 企業のインターネット接続回線もIPv6のものを用意する必要がある。まだ商用サービスを接続している企業は少ないが,今後,増えてくると考えられる。

 最後の段階として,独自開発ソフトのIPv6対応がある。IPv4を前提に開発されたソフトでは,OSがIPv6に対応しただけでは,IPv6での通信ができない可能性もある。IPv6対応にするためには,ソフトウエアの修正が必要になることもあるだろう。

(和田 英一=IT Pro編集)

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