デジタル・コンテンツの配信システムなどを開発,構築しているスター・アルファは9月11日,CD-ROMデータなどの大容量コンテンツをダウンロードする際の“体感時間”を短くするシステム「グルセン」を開発したことを明らかにした。

 同システムでは,大容量のコンテンツをサイズの小さな複数のファイルに分割し,例えば電子書籍ならば読み始めのページというような,ユーザーがはじめに使う情報をまず配信する。そして,ユーザーがその情報を使用している間に,バックグラウンドで残りの情報を配信する。こうすることで,使い始めるまでの待ち時間を短縮する。

 対象となるデータに制約はないが,電子書籍などのように意味のある部分に分割できる方が効果がはっきりする。圧縮されたプログラム・ファイルなどの場合は,単に分割してダウンロードするだけ,ということになる。

 出荷開始は10月を予定している。併せて,電子書籍配信サービスを提供しているイーブック イニシアティブ ジャパンが同システムを採用することも発表した。年内中には,同システムを使ったサービスを開始するという。

 システムは,(1)クライアント・ソフト,(2)配信サーバー・ソフト,(3)編集ソフトで構成される。具体的な配信手順は次のようになる。

 まず,配信者側(コンテンツ・プロバイダなど)は編集ソフトを使用して,既存のCD-ROMコンテンツなどをグルセン用のコンテンツに変換する。具体的には,配信データを小容量(イーブックのサービスでは32kバイト程度)の複数ファイルに分割する(同社ではこのファイルを「セグメント・データ」と呼ぶ)。併せて,セグメント・データの順番などを記録した「メタ情報ファイル」を作成する。そして,以上のファイルを配信サーバーに保存しておく。

 ユーザーはクライアント・ソフトから配信サーバーへリクエストを送信する。クライアント・ソフトは,まずメタ情報ファイルをダウンロードする。そして,ユーザーが実行したい部分(電子書籍ならば,読みたいページ)を指定すると,必要なセグメント・データだけをまずダウンロードして,ユーザーのパソコン上で実行する。最初の部分が実行されている間,クライアント・ソフトは別の部分のセグメント・ファイルを“先読み”し,パソコンのハード・ディスクに保存していく。電子書籍を例にすると,ユーザーが1ページ目を読んでいる間に,2ページ目以降を順番にダウンロードする。読む速さよりも,ダウンロードの速度が上回るので,知らない間にすべてのセグメント・データがダウンロードされていることになる。なお,通信にはHTTPおよびHTTPSを使用する。

 「ユーザーにとっては,パソコン上でCD-ROMを実行しているのとほとんど変わらない」(代表取締役社長 本田匡史氏)

 ストリーミングと大きく異なるのは,実行したい場所(読みたいページ)を自由に選択できること。例えば,5ページ目から読みたい場合には,その部分のセグメント・データから先読みされる。加えて,それぞれのセグメント・データは単独のファイルなので,通常のキャッシュ・サーバーにキャッシュされる。

 セグメント・データにはランダムにファイル名が付けられるので,セグメント・データだけ集めても,元のコンテンツを復元できない。復元するにはメタ情報ファイルが必要である。メタ情報ファイルは暗号化されているので,特定のクライアント・ソフトでないと読むことはできない。クライアント・ソフトごとに異なる,復号に必要な“かぎ”は,配信サーバーからHTTPS(SSL)で送信される。

 また,ダウンロードしたセグメント・データは,グルセンのクライアント・ソフトからは元のコンテンツとして認識できるが,コンテンツの一部分あるいはすべてを他のメディアにコピーすることはできない。

 現在同社は電子書籍に限らず,ゲームやオンライン教育などのコンテンツを持つ,様々なプロバイダ(コンテンツ・フォルダ)に話を持ちかけているという。

 「既存のCD-ROMなどの資産をそのまま利用できる。新たにコンテンツを作成する必要はない」(代表取締役副社長 井上典夫氏)

 編集ソフトを使えば,オンライン・サービス用のコンテンツに容易に加工できることも,同システムの特徴。具体的には,コンテンツの特定の部分に使用制限を施せる。例えば電子書籍の場合には,1章だけを無料して,2章以降はあらかじめ購入したIDとパスワードを入力しないと閲覧できないようにできる。

 システムの最小構成価格は500万円程度。加えて,実際に使用するには,利用目的や利用量に応じたロイヤリティを支払う必要がある。

(勝村 幸博=IT Pro編集)