流通システム開発センターは,同センターが開発した管理IP網のアーキテクチャであるOBN(Open Business Network)を拡張し,電話の呼を制御するNo.7共通線信号方式(SS7)をサポートできるようにしたことを明らかにした。電話の呼制御の標準方式であるSS7を利用することで,PSTNとOBNベースのIP電話網の対等な相互接続が容易に実現できるようになるというもの。従来のSS7ゲートウエイとの違いは,IP電話網全体のアーキテクチャとして公衆電話網への対応を進めた点である。

 基本的な構成は,次のようになる(図1)。OBN上には,VoIPゲートウエイとしてMedia Router(MR)と呼ぶルーターを設置する。電話をかける際は,まずこのMRにつながるようになる。MRは,公衆電話網(PSTN)の加入者交換機(LS)に相当する役割を担う。この方式を使ってIP電話サービスを提供する場合は,このMRを電話局などに設置することになる。企業ネットワークの場合は,PBXのような位置付けになる。

図1 IP電話網と公衆電話網の相互接続のイメージ

IP電話網とPSTNの相互接続イメージ

図中の略語の意味は次の通り。Tel(電話),MR(Media Router),EN(Edge Node),R(Router),GW(Gateway),NNI(Network Node Interface),TS(中継交換機),LS(加入者交換機),PSTN(公衆電話網)


 MRから先のOBN内部は,ルーターによるIP通信で電話関連のトラフィックを流す。OBN内部のルーターがPSTNの中継交換機(TS)の役割となる。PSTNとOBNベースのIP電話網を相互接続する場合には,PSTNのTSとOBN内部の電話ゲートウエイをNNI(Network Node Interface)で対等に接続する。

 また,SIP(Session Initiation protocol)とH.323に対応したIP電話端末を収容できるようにしてあり,この場合はMGではなくEdge Node(EN)と呼ばれるOBNルーターにIP電話端末を収容する。OBN内部では,エンドユーザーのIPパケットをOBNアドレスでカプセル化することで,セキュリティや品質の確保,経路制御などを実現している。従って,エンドユーザーのアドレスがプライベートアドレスの場合は内線電話,グローバルアドレスの場合は外線電話,といった使い方が可能である。

 一般にIP電話は,ベストエフォート型のインターネットでは遅延などの制約が多く,なかなか公衆電話網並みの機能と品質を実現するのは難しかった。これに対して管理IP網であるOBNでは,遅延などの品質はある程度以上にギャランティされている。

 OBN内部では,SS7のトラフィックと音声通話のトラフィックは別々のトラフィックとして処理される。OBNでは,トラフィックに応じて経路や品質などを管理できるため,共通線信号と通話のトラフィックを分けて処理できる。PSTNでも,通話自体は回線交換でつながるが,共通線信号のやり取りは別のネットワークである。従来のIP電話では,呼制御の部分だけはPSTNの機能を使ったりしていた。OBNのような品質保証のあるIP網をSS7対応にすることで,電話関連のすべてのトラフィックをIPで処理できるようになり,PSTNのコストに依存しない電話サービスを構築できるようになる。

 今後,IP網を利用した電話サービスが広がると見られているが,ネットワークの相互接続は大きな問題の一つである。SIPやH.323のようにIP側からの呼制御のアプローチ,MGCP(Media Gateway Control Protocol)やこれをベースにしたMEGACOのようなPSTN側からのアプローチなど,さまざまな方式が提案されている。しかし,電話トラフィックの中継にIP網を使うという程度ならまだしも,PSTNとIP電話網との対等な接続や数多くのネットワークを経由するような多様な接続,その上での多機能な電話サービスなどを実現することは困難だった。次世代の電話網の基盤としては未成熟な段階にあると言える。

 今回,流通システム開発センターが提案した,SS7をIP電話網でサポートするという方式は,そういった状況に対する回答の一つである。相互接続に限らず,SS7をベースにさまざまな電話のアプリケーションを実現できる。さらにOBNは,IPv6への対応も視野に入っている。例えば,携帯電話のフルIP化はIPv6で実現する方向にある。こういった,新しい電話インフラの基盤としても期待できる。

 もちろん,今回発表されたような考え方に沿った機器が,実際の加入者数を考えたときに十分にスケーラブルなものかどうかの検証など,今後の課題もある。とはいえ,実際に稼働している管理IP網をベースにした,広範囲に適用できるIP電話仕様であることは間違いない。

 OBNは,当初は管理IP網の機能を生かしたビジネスIPサービスの基盤技術であった。現在,(1)イントラネット・サービス,(2)エクストラネット・サービス,(3)インターネット接続サービスの3機能で,NTTコミュニケーションズ,NTTPCコミュニケーションズ,日本テレコムがサービスを提供している。今後は,マルチキャストなどへの機能拡張が計画されている。また,既に日米英豪などで特許を取得済みのOBNの基本技術と同様に,今回の共通線信号方式への機能拡張についても,各国に特許を申請する予定だという。

(田邊 俊雅=IT Pro副編集長)

◎参考文献
■PDFファイル:共通線信号方式をIPネットワークへ導入する方法(その1)
■PDFファイル:共通線信号方式をIPネットワークへ導入する方法(その2)
「OBN読本」(OBN情報センター)