先日,米BEA Systems社のCTO(最高技術責任者)であるScott Dietzen氏にインタビューをするチャンスがありました。アプリケーション・サーバーの主要ベンダーの技術戦略に責任を持ち,J2EEの誕生にも関わった同氏は,間違いなくJ2EE分野のキーパーソンの一人です。このコラムでは,氏の「発言集」をお届けします。

2004年1月に結成した団体JTC(Java Tools Community)について

「Java Tools Communityを,Eclipseと競合する団体と見るのは間違いだ。JTCの目的は,Eclipseとの競争ではなく,様々なツールにまたがる技術の統合だ」。

開発ツールの標準化を手がける団体であり,人気のあるオープンソース・プロジェクトであるEclipseと競合する団体と見られがちなJava Tools Communityですが,それは違う,との見解です。BEAは,Java Tools Communityの設立メンバーです。

IBMと共同で,Java標準化団体JCPに3種類のJSRを提案したことについて

「一つのJSR(Java Specification Requests,個々のJava技術の標準化案)の標準化には,18カ月から2年の時間がかかる。顧客はそんなに待てない。BEA,IBMが後押しする技術ならば,顧客は2年前倒しで技術を使えることになる」。

JSR-235,236,237という3種の標準技術案を,IBMとBEAが共同で提出して話題になりました。IBMは,すでに自社製品にこれらの機能を搭載しています。「こうしたやり方は,今後とも続けるのか,それとも今回はテストケースで,様々な方法を模索しようとしているのか」との問いに対しては,「テストケース。他の方法も試みる」。いろいろな方法でJava標準化のスピードアップを求めていくとの姿勢です。

オープンソース・プロジェクトについて

「クリティカル・マス(臨界質量,普及のための量的なポイント)に達したオープンソース・プロジェクトは三つ。Linux,Apache,MySQLだ。いずれも,背後には商用ベンダーの後押しがある。開発作業で『汗をかく』作業の相当な部分を,ベンダーが引き受けているのだ」。

BEAも,オープンソースの追い上げを受けていると見なされているベンダーの一社です。ただ,氏はオープンソース・ソフトウエアの採用に関しては慎重な態度を取るべきだと考えているようです。

マイクロソフトについて

「マイクロソフトのビジネス・モデルは,市場占有率80%以上を取ることが前提になっている。サーバーOSで80%を取るには,Linuxと商用UNIXの両方を追い払うことが必要だが,そんな事ができるだろうか。サーバーの寿命は5年,10年というレンジになる。ある顧客の所に行ったところ,1998年いらい(6年の間)一度もリブートしないでLinuxを使っていると話してくれた。同じ事がWindowsで可能だろうか?」

マイクロソフトがサーバー分野で,同社流の成功を収めることはない,との見方です。

IBMについて

「BEAは,IBMと協力してJava標準化に貢献していく。競合相手と協力して市場を広げる。IBMとは,TCO(Total Cost of Ownership)で競争する。WebSphere5 のEnterprise Editionが,CD-ROM何枚か,知っているか? 54枚だ。一方,WebLogicはCD-ROM1枚に収まる。BEAは,IBMと同様にオープンな標準技術をサポートし,マイクロソフトのように使い方がシンプルな製品を作ることで競争する」。

IBMの弱点は複雑さにある,と指摘しました。

アスペクト指向について

「今,興味を持っている分野の一つがアスペクト指向プログラミング(AOP)だ。実は,BEAの開発者サイトdev2devには,すでにWebLogic8.1用のAOPツールが公開されている。どんな使い方があるのか,ぜひアイデアを聞かせて欲しい」。

アスペクト指向プログラミングは,「横断的な処理」の記述を,個別のプログラム・モジュールとは別に一カ所にまとめて記述できるもの。例として「消費税の計算は?」との質問に,Scott氏は「それも考えられる」と応じてくれました。

JDOについて

「JDO(Java Data Object)は,J2EEの一部にはならない,と考えている」。

JDOは,2002年に仕様が決まった新しいJava APIで,O-R(オブジェクト-リレーショナル)マッピングの手法を標準化するもの。J2EE仕様の一部にはなっていないが,システム開発者の中にはJDO待望論を唱える人もいます。

しかし,J2EE仕様の策定にも大きな影響力を持つBEAのScott Dietzen氏は,JDOには冷淡です。EJBの機能と一部が重なることがその理由のようです。

番外:J2EE誕生秘話

J2EEのコンセプトは,「僕と,IBMのRod Smithが考えてSunに持って行ったんだ」とScott Dietzen氏。当事者の口から聞くのは初めてでした。実際,J2EEというコンセプトを最も必要としていたのは,BEAとIBMだったことは確かです。

そして今は,同氏はインテグレーション機能や,ビジネス向けフレームワークを含んだ概念に関心を向けています。「それはもはやJ2EEとは呼ばれないだろう」ということです。