2004年1月6日、Java Tools Community(JTC)と呼ぶ団体が設立されました。JCP(Java Community Process)メンバー企業による、「ツール・フレンドリ」なJava技術標準を推進する団体です。

 当初メンバーは、米Sun Microsystems、米BEA Systems、米Oracleなど。ただし、Javaツール・ベンダーといえば必ず名が出てくる米IBM、米Borlandの両社の名前はありません。

 ベンダー側の企業として、他に米Compuware、米Embarcadero Technologies、米Iopsis Software、チェコJetBrains、米Quest Software、ドイツSAP、米SAS Institute(SAS)。ユーザー側の企業としてUS Sprint社とVerizon社が参加しています。

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 この団体が何を目論んでいるのか。現時点で分かっていることを書きます。同社のWeb上に上がっている資料と今までの歴史的な経緯を組み合わせると、ある程度の内容は見えてきます。

 まずこの団体はJCP(Java Community Process)とは「補完的な関係にある」としています。JCPはJava APIの仕様を決める役割を持っており、いわばJavaの稼働環境を決めているのですが、今回設立されたJTCは「開発フェーズに関する」標準を推進するということです。ただ、JTCはあくまでJCPによる標準化を支援するのであって、JTC自体は標準化団体ではない、としています。

 今のJava技術の進化の方向は、様々な局面で開発ツールによる積極的な支援を前提としたものとなっています。よく知られている例としてJavaBeansがあります。最近出てきたJSF(JavaServer Faces)、メタデータ(プログラムに埋め込まれた「注釈」情報)、UML-EJBマッピングなども、開発ツールとの連携を前提とした技術といえます。稼働環境だけでなく開発ツールをも視野に入れた標準化が必要になっていることは、確かです。

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 ここで誰もが思うであろう事は、なぜIBMとBorlandが入っていないのか、ということです。また、開発ツールに関するオープンソース・プロジェクトとして著名なEclipse.orgも、JTCのメンバーではありません。ではJTCは「弱者連合」なのでしょうか? しかしJTCは製品を作る団体ではないので、そうした見方だけでは本質は分かりません。JTCを理解するポイントは、やはりJava技術そのものの標準化を推進するJCPにありそうです。

 JTCのWebサイトに上がっているFAQを見ると、興味深いことが書いてあります。「EclipseはJTCメンバーなのか?」という質問に対して、「現段階ではEclipseは独立した組織といえず、いかなるコミュニティ団体にも参加できない」と返答しているのです。ずいぶん木で鼻をくくったようなモノの言い方ですが、その背後には歴史的経緯があるようです。

 Sunは元々開発ツールに関するオープンソース・プロジェクトNetBeansを推進していたこと、EclipseはIBMの影響が大きな団体であること、Eclipseの基本技術であるSWT(Simple Widget Kit)にはOS依存性があるためJava技術とは相容れないとSunが考えていること、最近SunとEclipseとの間で続けられてきた交渉が打ち切られたとの報道が出ていること--等々。

 Eclipseは大勢の利用者を集め、影響力が大きなプロジェクトになっています。この先、Eclipseプロジェクトが推進する実装がそのまま業界標準になっていくという形で、Java開発者コミュニティへの影響力を発揮するような事になると、JCPを推進する企業群としては面白くないのは確かです。影響力が大きいという事は、例えばTomcatの開発主体であるApache Software Foundation(ASF)についてもいえますが、ASFはJCPの参加メンバーなので事情が違います。

 元々、標準化とは、ベンダー間の勢力争いも含みながらも技術的な合理性を根拠として進行する、微妙なプロセスです。一方、Eclipseというオープンソース・プロジェクトは、その開発パワーと開発者への影響力の大きさから、ベンダーにとっても無視できない存在となっていますが、Eclipseの方向性に影響を与えられるベンダーは、事実上IBM以外にはありません。オープンソース・プロジェクトに注ぎ込める開発パワーや資金力という点で、IBMと同じ土俵にのることは他社には無理な相談です。

 開発パワーや資金力を使う以外のやり方で、影響力を行使するには、どうすればいいか? JCPという確立された標準化プロセスを根拠として、開発ツールの製品開発に対する影響力を行使するというやり方が考えられます。あるいは、今回設立されたJTCの意味は、このあたりにあるのかもしれません。

 もしそうだとしても、標準化プロセスであるJCPを影響力の根拠としている以上は、どこか特定の一社だけの都合で事が運ぶことにはならないはずですし、そうあることを願いたいと思います。

星 暁雄=日経BP Javaプロジェクト

●Java Tools Community(JTC)公式ページ
http://www.javatools.org/