メールマガジンIT Pro-Java Radar、2003年最後の号を出すにあたり、考えたことを記します。

 IT Pro-Java Radarの前身「日経Javaレビュー」を始めたのが1997年4月なので、Java情報を毎週伝えるという活動を初めてから足掛け7年経ちます。1997年には一部のアーリー・エンドーサーが試みていたJava技術ですが、そのカバー範囲は広がり、影響力も広がり、J2EE(Java 2 Platform, Enterprise Edition)は今では情報システムの「構築」や「開発」においては堂々たるITの主役に成長しました。そのうち、「運用」や「保守」の領域でも大きなテーマとなっていくと思われます。

 ここでは、2003年末という区切りに向けて、エンタープライズJava分野の動向を見るための4つの「軸」を提示してみたいと思います。

【1】「基幹系」への浸透

 UFJ銀行のシステムへのJ2EE採用が象徴的だったと思います。大規模なオンライン・トランザクション処理もJ2EEのターゲットとなってきました。メインフレームを使い続けることが難しい環境の中で、それを置き換えられる技術体系となると、まず候補となるのがJ2EEということだったと言えます。

【2】オープンソース・ソフトウエアの台頭

 システムの構成要素としてオープンソース・ソフトウエアを検討することは、もはや当たり前。開発段階でのEclipseやAntの利用、運用プラットフォームとしてのTomcatやStrutsの利用は、もう珍しくありません。オープンソース・ソフトウエアとの付き合い方は開発者の必須の知識となってきたといえます。

【3】フロンティアは「コンポーネント」と「サービス」

 J2EEは枯れてきたという見方がある一方で、フロンティア(最前線)はまだまだ広大です。特に注目するべきなのは、コンポーネント再利用と、サービス(Webサービス)との連携ではないか、と見ています。

 大勢の開発者たちの努力の結果、開発プロジェクトから再利用可能なコンポーネントを「収穫する」には、個別の要素技術を追求するだけでなく、開発プロジェクトそのものの見直し、最適化が必要だという認識が出てきました。例えば、コンポーネント指向開発を掲げるベンチャーのイーシー・ワンが打ち出した開発体系「cStyle」や、EJBコンソーシアムの新たな部会「ベスト・プラクティス研究会」に、こうした考え方を見ることができます。

 一方、ニュースとしての露出が減っているにも関わらず、Webサービスは現実に近づいてきたように感じています。コンポーネントとサービスは表裏一体です。適切な粒度のコンポーネントを組み合わせてシステムを作ることが、今では普通のやり方です。こうしたコンポーネントに対して標準的なインタフェースを与えれば、それは「サービス」としての性格を備えるようになります。サービスを疎結合していくアーキテクチャ(IBMの言う「SOA(サービス指向アーキテクチャ)」)は、手が届く場所にあるといえます。それを裏付けるのは、EJBとWebサービスの連携仕様JSR-109、サービス群のワークフローを管理するBPEL4WSといった技術群が揃ってきたことです。

【4】開発プロセスの革新

 Java技術のユーザーとは、Javaプログラミング--Java言語でJava APIで開発する--を手がけている人だけではありません。ユーザー側に必要なことは、Java言語に精通することよりも、開発プロセスの全体を管理し、設計工程をきちんとこなすことです。ただし、実装の工程を理解するためには、設計者にもJ2EEの知識は必要です。どんな知識が必要か。それは、オブジェクト指向開発であったり、アーキテクチャの中での各種技術の役割の理解であったりするでしょう。

 オブジェクト指向の開発プロセスの導入が徐々に進んでいます。RUPの概念(反復型開発など)も知られるようになってきました。Java技術は、現代的な開発プロセスとは自然な形で結びつきます。新たな開発プロジェクトでは、こうした開発プロセスの考え方をどう取り込むかが一つのチャレンジとなってくるでしょう。

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 そして、2003年のニュースを見てみると、Sun Microsystemsの動き、IBMの動きが、それぞれ気になります。

 Sunは、JavaブランドとJava技術をより戦略的に活用するとの方針を強めています。Javaブランドということでは、Java Enterprise System(OS/ミドルウエア・スタックを従業員1人あたり年間100ドルという新価格モデルで提供)、Java Desktop System(Linuxデスクトップとオフィス・スイート類を1人50ドルで提供)の登場。Java技術の戦略的活用ではEoD(Ease of Development、開発の容易さ)の追求。特にJSF(JavaServer Faces) APIと、それに基づく開発ツールの早期提供の方針がそれです。こうした技術を背景に「Java開発者を1000万人に」と大風呂敷を広げています。

 IBMは、Java技術とWebサービス、それに主要オープンソース・コミュニティへの影響力を強めつつあります。一例を挙げると、同社はこの12月にBEA Systemsと共同で、Java標準化団体JCPに対して3つの標準仕様案(JSR-235、236、237)を提案しましたが、その内容は、すでに製品(WebSphere Application Server V5と、WebSphere StudioV5.1.1)に取り入れられたものです。製品化(あるいはオープンソース・ソフトウエア化)を先行させ、それを標準にしようとしているのです。

 SunはJavaブランドを、IBMは潤沢な開発パワーを、それぞれ自社のビジネスに結びつけようとしています。

 個人的な感想としては、SunやIBMが、それぞれ自社のビジネスに有利なよう動いているのは事実だとしても、今のところユーザー・メリットを損なう結果にはつながっておらず、競争による技術の進化の促進の効果があると見てよい、と感じています。現象としては、JSF対応開発ツールが早期に登場したり、アプリケーション・サーバーの機能が充実したりしているからです。もちろん、両社の動向には注意する必要があります。

 メールマガジンIT Pro-Java Radar、次回は、来年の1月6日発行の予定です。それでは読者の皆さん、よいお年を!

星 暁雄=日経BP Javaプロジェクト

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