タカラ
グループ戦略本部 新規事業開発部 開発課 係長
池澤寿彦

  池澤寿彦氏

 読者の方は,何ゆえ玩具メーカーがIPv6?と思われるだろう。

 この仕事の前から,私はフレッツ・ロボ(注1)やネットワーク接続を使った商品企画を担当していて,遠隔操作やコミュニケーションで楽しい物を作り上げることができるのか?と常々考えていた。遠隔操作は面白いのか?ネットワーク接続によるコミュニケーションは,本当に面白いのだろうか?

注1:フレッツ・ロボはNTT西日本がフレッツ・ADSL申し込み者を対象に配布していたプレゼント商品。プレゼントは2001年12月で終了している。

 そんな中,「IPv6の市場拡大のキーになるような商品が作れないか?」と,NTTコミュニケーションズからIPv6の話を聞いた。正直これは大変だと思った。

 玩具というものは,ものすごく制約がなさそうで,実は制限だらけの商品なのだ。なにせ面倒な物は売れないので,パソコンや電気製品のように細かい設定が必要な商品はまったく駄目。遊ぶために,顧客にシステムの学習や理解をさせることは,避けなければならない。

 この玩具企画の考え方を,ネットワーク製品を売るために生かせないか,と私は考えた。社内でもIPv6の説明をするのに,インターネットの仕組みから説明しなければならない。それくらい,一般の方とエンジニアの認識はかけ離れている。この顧客の中で市場拡大を狙うには,説明がいらない商品でなければ駄目だ。また,楽しく面白い物でなければ使いたいと思わないし,楽でなければ購入してもらえないだろう。

 そこで,今ネットワークで誰もが使っている物を,IPv6によってもっと簡単に,もっと楽しく使えるようにするのはどうかと考えた。m2m-xを使用することにより,簡単に接続ができる。頭で考えるより先に使える機能にする。

 こんな方向性で仕様を絞り込み,「IP糸テレフォン」(関連記事)の概略がまとまった。さらに,“物を売ってなんぼ”がそもそもメーカーの商売。m2m-xのシステムならサーバーに余計な費用が発生することもなく,その分うちの商売がしやすいとも考えた。

 IP糸テレフォン企画とは別に,IPv6には玩具に使いたい要素があるし,必要もあると考える。これからの玩具は,システムも大きくなってきている。できるだけ小さな実装で小回りの効く対応を取るためには,IPv6が向いていると思う。

 当社のカラオケ・マシンのe-karaは,パソコン経由だがインターネットに接続して好きな曲を好きな時にダウンロードして歌うことができる。このe-karaをネットワークに直接簡単につなぎ,通信カラオケにすることが技術的には可能になってきたので楽しみだ。

 様々な問題を解決すれば,昔言われていた分散型のネットワーク端末が,ようやく家庭向けに出てくるのかもしれないし,出していきたいとも思う。難しいこと(IPv6など)を一般の方に分かりやすく「翻訳」することが,私の役割なのかもしれないと思うこの頃だ。

 まだまだ開発中のIP糸テレフォンだが,ネットワーク対応のチップが出てくれば,コストの問題が解決できると思う。そんな安いチップがあればぜひ教えていただきたい。さらに音声制御機能が乗っていれば言うことはない。後は何にもいらないから,よろしくお願いします。

■著者紹介:
いけざわ としひこ。タカラ グループ戦略本部 新規事業開発部 開発課 係長。タカラ入社後,家庭用ゲーム・ソフトのディレクタ。その後,携帯電話のコンテンツ立ち上げと,ネットワーク玩具の企画を並行して担当。フレッツ・ロボの企画開発を行い現在に至る。新機能が付いたマウスは即買いするほどのマウス好き。学生の頃からゲーム制作や造形が好きで,今も公私共々やっていることは変わらない。