「Amazon QuickSight」はAWSのBI(Business Intelligence)サービスだ。2016年11月に一般提供が始まり、2017年4月7日時点で米バージニア北部、米オレゴン、アイルランドという三つのリージョンで提供されている。標準機能の「Standard Edition(SE)」と、データ暗号化やActive Directory連携が可能な「Enterprise Edition(EE)」の2グレードがある。
QuickSightの最大の特徴は手軽さだ。マネージドサービスで運用保守の手間が小さいうえに、AWSの各種データソースと容易に連携できる。
さらに、1ユーザー当たり年額108ドル(1ドル110円換算で1万1880円、税別)から、と価格を抑えた(表1)。代表的な多機能BIソフトである米Tableau Softwareの「Tableau Server」の参考価格(公式サイトに掲載されているもの)は、1ユーザー当たり年額5万1000円(税別)。QuickSightの価格はその4分の1ほどだ。データ量などの条件で価格は変わるが、特に多くのユーザーが使うケースでQuickSightのコストメリットは大きい。
インメモリーカラムナーDB装備
図1に、QuickSightを使ったBIシステムの構成を示した。データソース、BIエンジン、クライアント(ビュー)に分けて見ていこう。
データソースについては、オブジェクトストレージのS3、リレーショナルデータベースのRDS/Aurora、データウエアハウスのRedshift、並列分散処理のEMRなどAWSの各種リソースに加え、Salesforce.comのデータソース、オンプレミス環境のリレーショナルデータベース(RDB)にも対応する。
オンプレミス環境のRDBは、MySQL、PostgreSQL、SQL Serverなどである。Oracle Database、IBM DB2、SAP Adaptive Server Enterpriseなどには対応していないことに注意が必要だ。
BIエンジンは、「SPICE(Super-fast Parallel In-memory Calculation Engine)」と呼ぶ独自のインメモリーカラムナーDBを備える。詳しくは後述するが、実際に使用したところストレスを感じない程度のレスポンスでグラフを表示した。
クライアントは、Webブラウザーか専用モバイルアプリを使う。執筆時点では英語版のユーザーインタフェースしか提供されていない。ただ、比較的シンプルなユーザーインタフェースのため、英語のメニューが分からなくても直感的に操作できるだろう。
表示可能なグラフは13種類。棒グラフ(縦・横)、積み上げ棒グラフ(縦・横)、100%積み上げ棒グラフ(縦・横)、折れ線グラフ、エリアラインチャート(面グラフ)、ピボットテーブル、散布図、ツリーマップ、円グラフ、ヒートマップだ。これらはダッシュボードを使用して、他のユーザーと共有できる。
グラフは13種あるとはいえ、データ分析の専門家向けとしては十分ではない。Tableau Serverと比較すると、QuickSightには関数や演算子を使った算術式の定義や地図描写などの高度な分析機能が乏しい。
QuickSightのグラフ機能は、表計算ソフトのレベルに近い。データ分析の専門家向けではなく、多くの社員にBIツールのユーザーを広げるのに適している。