近年、Amazon Web Services(AWS)をはじめとするパブリッククラウドサービスを導入する企業が増え、セキュリティや信頼性を重視するメガバンクまでもが大規模導入に踏み切るようになりました。それに伴い、AWSを使いこなせるITエンジニアの需要がますます高まっています。

 私(堀内)は以前、アマゾン データ サービス ジャパン(現・アマゾン ウェブ サービス ジャパン)でテクニカルエバンジェリストを務めていました。現在は、クラウド自動化プラットフォーム「Mobingi ALM」を展開するモビンギの取締役を務めながら、グローバルナレッジネットワークという教育会社で、AWSの公式トレーニングの講師をしています。最近の受講ニーズの高まりは、講師の私も驚かされるほどです。

 業務システムにAWSを本格導入するうえで必要な知識は多岐にわたります。そのため、どこから学んだらいいのか分からない、AWSを触って学んでいるが体系的に理解したという手応えがない――といった悩みを抱える方が多いようです。

 そこで本連載では、オンプレミス(自社所有)環境のシステムの開発・運用に携わってきたが、クラウドについては知識も経験もほとんどないITエンジニアの方を対象に、AWSの基本を解説します。業務システムで必要なAWSのサービスについて、体系的に知識を学びます。

 毎回、知識が身に付いたかどうかをチェックできるように、演習問題を出します。「AWS認定ソリューションアーキテクト - アソシエイト」というAWS認定資格の想定問題なので、試験対策になります。連載を読み終えたころには、資格を取得するベースの知識が身に付くことを目標とします。毎回、本編を読んでから解いてください。自信のある方は先に挑戦しても構いません。

 AWSを使いこなすには、AWSのサービス一つひとつの機能、特性、制約、価格体系を理解し、複数のサービスを組み合わせてシステムを構築していくことが必要です。2017年3月現在、AWSのサービスは95以上あり、それぞれに複数のインスタンスサイズ、オプション、料金プランなどがあります。それらを理解するのは大変です。

 本連載では当面、AWSの主要な知識を説明した後、ロードバランサーと仮想マシン2台のようなシンプルな構成の設計について解説します。そのうえで、可用性や拡張性の高い構成に段階的に改修していく方法を解説していきます。各回では、その過程で利用するAWSのサービスについて詳しく学びます。

 今回は、AWSというクラウドサービスを使うメリットとデータセンターの構成を取り上げます。

「クラウドとは何か」にどう答えるか

 最初に質問です。クラウドコンピューティングとは何でしょうか。分かっているようで、企業の役員や利用部門の人から聞かれると意外に答えるのが難しいこの点から解説を始めましょう。

 一般にクラウドコンピューティングは、アプリケーションやインフラなどのITリソースを、自社で所有するのではなく、ネットワークを経由して必要に応じて利用する形態を指します。そのような利用形態が可能なITリソースの提供者を、クラウドサービスプロバイダーと呼びます。

 AWSはワールドワイドでシェア1位のクラウドサービスプロバイダーです。提供しているサービスは95以上。全てをAPI(Application Programming Interface)経由で利用でき、基本的に使った分の料金を支払う従量課金制です。

 AWSをはじめとするクラウドサービスを利用するメリットを一言で表すと、従来のインフラに比べて「安く」「早く」「簡単に」なることです。

 安くなる最大の理由は、従量課金なので、従来のオンプレミス環境に比べて余剰なITリソースを持たなくて済むからです。オンプレミス環境では、深夜のようなシステムを使わない時間帯も、1社でITリソースを専有します。クラウドなら、必要な時間だけITリソースを確保し、その分だけの料金を支払う。だから、安くなります。

 さらに規模の経済が働き、ITリソースの原価を抑えられることも、安さにつながります。2017年3月現在、AWSのユーザー企業は100万社を超え、物理サーバーは数百万台といわれています。ユーザー企業が1社で調達するのとは、ITリソースの単価が大きく違います。しかも大規模なので運用自動化のメリットが大きいことも、安くできる要因の一つになります。

 次は早くなることです。従来のオンプレミス環境では、インフラ調達がビジネススピードの足かせになることが少なくありませんでした。ネットで提供しているサービスの利用者が急増したとき、インフラの調達に1カ月も掛かるようではライバルに後れを取るでしょう。