Amazon Web Services(AWS)とMicrosoft Azure(Azure)をはじめとするパブリッククラウドサービス(以下、クラウド)が普及し、サービスの特徴や使い方についての情報が手に入りやすくなってきた。それに伴い、業務システムを、従来のオンプレミス(自社所有)環境からクラウドに移行する動きが広がっている。
一方で、システムのクラウド移行をどのように進めるのか、という標準的な手順はまだ定まっていない。いざクラウドへの移行を進めようとすると、どんな手順で進めればよいか分からない。現場のITエンジニアにとってはそんな状況だろう。
では、システムのクラウド移行をどのように進めればよいか。本連載では、一般的なユーザー企業の業務システムを対象に、AWSおよびAzureへの標準的な移行方法を解説する。
最初に、全体の手順を説明しよう(図1)。クラウド移行を成功させるには、手順を踏むことが極めて重要だ。
いきなり対象システムを選定して移行してみる、というアプローチを取るのは得策ではない。クラウド移行には費用も時間も掛かるし、それを進める人的リソースも大きなものになるからだ。
クラウド移行は、経営上の投資にほかならない。何の目的でクラウド移行を進めるのか。どれだけの投資が必要か。それに見合う経営上の効果を得られるのか。それらを明らかにして、プロジェクトの進め方や体制を計画し、経営層の承認を得る。これが「(1)企画フェーズ」である。
「(2)戦略・分析フェーズ」では、現状のインフラやシステムの状況を把握。同時に、クラウドに求められる事項を明確化する。さらに、移行対象のシステム候補を選定し、移行順序付けの考え方を明らかにする。
さらに「(3)PoC(実証実験)フェーズ」で、実際にクラウドサービスを利用しながら、懸念点を検証する。
ここまでの内容を踏まえ、システムごとに設計や移行を行う。これが「(4)設計・移行フェーズ」。その際、必要に応じて、標準化や共通化も推進する。
移行後は「(5)運用・改善フェーズ」として、運用を行い、それを通じて得た知見を基に、戦略を見直したり設計内容を見直したりする。