「2017年6月にAWSへ完全移行したことで、以前に比べてサービスの稼働率はかなり上がっている」――。リコー OS開発本部 SI開発センター 第四開発室 クラウドPFグループの梅原直樹氏は、法人向けテレビ会議システム「RICOH UCS(Unified Communication System)」のAWS移行プロジェクトをこう評価する。

 RICOH UCSは2011年8月に開始したサービスだ。顧客側に専用のシステムを設置する必要はなく、インターネットを介して専用端末で利用する。PCやスマートフォンからも使える。

 2012年にグローバル展開を開始。ユーザー数は非公表だが「現在は日本と米国を中心に世界中のあらゆる場所で使われている」(梅原氏)という。

 従来システムのインフラは、リコーのデータセンターに設置したプライベートクラウドを利用していた。システムの中核は映像配信サーバーだ。ほかには電話を掛けたり切ったりするための一連の処理を指す呼制御用に、認証や電話番号を取得するためのWeb APIサーバーなどがある(図1)。

図1 法人向けテレビ会議システムのインフラをAWSへ移行
図1 法人向けテレビ会議システムのインフラをAWSへ移行
[画像のクリックで拡大表示]

 2017年6月にAWSへの移行を完了した(図2)。AWS採用の理由の一つは、グローバル展開のためだ。梅原氏は「会議映像の配信遅延を小さくするには、ユーザーに近い場所にシステムを用意する必要がある。オンプレミス(自社所有)環境を海外に追加していくのは現実的ではなかった」と語る。

図2 AWS導入の主な経緯
図2 AWS導入の主な経緯
[画像のクリックで拡大表示]

 もう一つの理由は、2015年に経験したデータセンターの大規模障害だ。「仮想サーバーは冗長化構成にしていたが、ストレージなどの故障でシステム全体に影響が出た。一時サービスが止まるなど、ユーザーに迷惑を掛けた」(梅原氏)と振り返る。

 有料サービスのため「一瞬でも止まるとクレームが来る」(梅原氏)。インフラの運用は社内の専門部門が担当していたが、「リソースの追加といった改善要求に対し、最短でも2日掛かっていた」(同氏)という。改善要求に迅速に応えるためにも、パブリッククラウドへの移行が必要と判断した。