「コスト削減やBCP(Business Continuity Plan)対策に加え、ハードウエアの保有から脱却したかった」――。旭硝子 情報システム部長の伊藤肇氏は、AWS導入の狙いをこう語る。

 同社がAWS導入の検討を始めたのは2014年2月。ビル・産業用ガラスの販売管理、物流などを担う国内向け基幹システムのハードウエアが保守切れを迎えることがきっかけだ。同システムはメインフレーム上で動作していた専用システムだった(図1)。

 旭硝子 情報システム部 電子・基盤技術グループの大木浩司マネージャーは、「事業の柱の一つである重要なシステムで、停止すると大きな影響が出る」と話す。

図1 基幹システムのハードウエア保守切れを契機にAWS移行を検討
図1 基幹システムのハードウエア保守切れを契機にAWS移行を検討
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オープン化を決断

 保守切れを契機にシステムのオープン化を決断。欧州SAPのERP(Enterprise Resource Planning)パッケージを採用し、一から作り直すことにした。システム基盤としてオンプレミス(自社所有)環境か、クラウドのどちらが適切かを検討した。

 クラウドの活用に踏み切ったのは伊藤部長が話す通り、システム開発や運用コストの低減、現実的な費用でのBCP対策、ハードウエア保有からの脱却という狙いがあった。

 データのバックアップについては、「以前は週次で磁気テープに完全バックアップしていた。ただデータの読み出しにはテープ装置の手配が必要で、実質約1カ月以上かかる想定だった」(旭硝子 情報システム部 電子・基盤技術グループの大橋数也リーダー)。

 AWS導入後は「RPO(Recovery Point Objective、目標復旧時点)が数分前、RTO(Recovery Time Objective、目標復旧時間)が1日という復旧体制を実現できている」(大木氏)と大幅に改善した。

 ハードウエア保有からの脱却に関して、旭硝子 情報システム部 デジタル・イノベーショングループの浅沼勉マネージャーは、「5年ごとにハードウエアを更改しており、交換作業に労力が割かれていた。機能改善をハードの更改に合わせることもあり、利用部門に我慢を強いることもあった」と語る。

 導入前には想定していなかった効果もあった。「開発スピードの向上や、システム変更がしやすいといった柔軟性も魅力だ」(大木氏)。