土木、建築事業やしゅんせつ事業を手掛ける小柳建設。同社は2016年9月、基幹システムをMicrosoft Azure上に全面移行し、本格運用を開始した(図1)。

図1 BCP対策とセキュリティ強化目的に基幹システムをAzure上に移行
図1 BCP対策とセキュリティ強化目的に基幹システムをAzure上に移行
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 小柳建設の小柳卓蔵代表取締役社長は、Azure移行の狙いをこう語る。「建設業者は県や業界との協定により、災害時は自衛隊などより先に河川や道路に出掛けて復旧対応することが義務付けられている。迅速な情報共有やBCP(Business Continuity Planning)対策の観点から、クラウドの活用に踏み切った」。

水害で市内企業が倒産

 小柳建設の本社がある新潟県三条市は、近年大規模な災害が続いている。小柳社長は「ここ数年で大きな水害が2回起きている。川が決壊した前回の水害では、業務が停止したことで倒産に追い込まれた企業もあった」と話す。

 従来、ビジネスの根幹を成す顧客や工事関連のデータは、本社内の物理サーバーで管理していた。小柳建設の総務部 部長で、当時同社ITシステム課でAzure移行プロジェクトの指揮を執った穂苅洋介氏は、「仮に水害を受けた場合、重要なデータが入ったサーバーが水没する危険性があった」と話す。

 本社の場所は鉄道線路に近いため、「振動の影響で一時期ディスクが立て続けに故障した」(穂苅氏)こともあった。オンプレミス環境のサーバーの保守切れが2016年10月に迫っていたこともあり、2015年夏に「これ以上先延ばしできないと考え、基幹システムの移行を検討し始めた」(同)のだ(図2)。

図2 Azureを使ったIT基盤整備の主な経緯
図2 Azureを使ったIT基盤整備の主な経緯
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ベンダー4社に打診

 穂苅氏は付き合いのあったベンダーも含め、4社に移行計画を打診した。「大半はオンプレミス環境のハードウエアを入れ替えるだけの提案だった」(穂苅氏)。オンプレミス環境のまま、BCP対策用に冗長化などの対策を施すと「とてもじゃないが投資できない見積額になった。初期費用も掛かり過ぎた」(同)と話す。

 国内の大手ベンダーは、自社クラウドへの移行を提案した。しかし、契約には至らなかった。穂苅氏は「ベンダーの本社が東京にあるため、継続的にきめ細かいサポートを受けることが難しいと感じた」と理由を説明する。穂苅氏は今回の基幹システムの移行を単なる移行で終わらせず、同社が抱えるIT関連の課題解消につなげたいと考えていた。

 そんな折、日本マイクロソフトの営業担当者から、同じく新潟県に本社があるティーケーネットサービス(TKNS)を紹介された。TKNSは米Microsoftのパートナーで、特定ソリューションに強いことを認定するコンピテンシーで、中小企業向け市場のクラウドソリューションなどで最上位のGold認定を得ている。

 TKNSは2015年11月、小柳建設が抱えていた中長期的な課題を解消する提案を出した。基幹システムのインフラにAzureを採用し、並行してOffice 365によるコミュニケーション基盤を構築することや、建設現場を含めた各システムの統合管理、リモートアクセス環境の整備などだ。

 小柳建設 総務部 ITシステム課 課長の和田博司氏は、同提案を受けて「単なる基幹システムの移行計画から、中長期的なIT基盤整備にプロジェクトを拡張した」と話す。