(5)マイナンバーを適法に提供するためのルール作り

 マイナンバーは、以前から実施している社会保障手続き・税務手続きのために取り扱うものなので、これまでどおりの相手先に提供することは、原則としてマイナンバー法では適法である。ただし本人交付用の源泉徴収票のように、プライバシーなどへの配慮から、従来と異なり、マイナンバーを提供しない取り扱いとなるケースもある。

 そのため、マイナンバーの適法な提供のためには、マイナンバーを取り扱う社会保障手続き・税務手続きで、これまで個人情報の提供を行ってきた相手方を洗い出し、その相手方への提供が、マイナンバー法上認められているかどうかを確認するとよい。もっとも、現段階ですべての相手方を洗い出す必要はない。まず、定型的な提供先を把握したうえで、マイナンバー取扱規程に具体的に名称などを記載しておく。例えば、税務署、A健康保険組合などと記載するか、のようにまとめるとよい。

表●マイナンバー提供先の洗い出しの例
分野 事務 提供先 マイナンバーの提供
法定調書
提出事務
税務当局
(税務署・地方税当局)

マイナンバーを記載して提出
本人(通常) ×
マイナンバーを記載しないで交付
本人(開示請求)
マイナンバーを記載して交付
社会
保障
雇用保険
届出事務
ハローワーク
マイナンバーを記載して提出

 取扱規程に記載されていない相手(つまり現時点では提供が発生するか不明な相手)に提供を求められたら、担当者は必ず上司の許可を求め、上司が法務部・弁護士などに確認してから、提供するようにするとよいだろう。

2.マイナンバーを委託する際の注意点

(1)責任を委託先にすべて転嫁することはできない
●委託元にも義務・責任が残る

 「マイナンバーを自社で管理するのは不安なので委託したい」という声もある。しかし、マイナンバー業務を社外に委託しても、委託元の企業が責任をすべて免れるわけではない。万が一、委託先がマイナンバーに関して問題を起こした場合に、「委託先に任せているので当社は関係ない」と言うことは、法律上も社会通念上も難しい。マイナンバー法では、マイナンバーを手元に持っている人にだけ義務を課しているわけではない。取り扱いを委託するにしても、自社内でマイナンバーを取り扱う場合と同様に、適切な管理が必要であり、委託先を監督しなければならない(マイナンバー法11条、個人情報保護法22条)。

●委託とは何か

 では、そもそも何がマイナンバーの委託に当たるのか。シンプルに言えば、自社以外の者がマイナンバーにアクセスできれば委託に当たると考えるとよい。例えば、マイナンバーが記載された法定調書の印刷を印刷会社に依頼する、マイナンバーの記入を含めた税務手続きを税理士に依頼する、マイナンバーを保管するシステムの運用・保守をITベンダーに依頼する、マイナンバーの保管をクラウドサービスの事業者に依頼するなどは、委託に当たりうる。

 システム保守やクラウドは委託に該当しないと考える企業もあるかもしれない。しかし実運用の開始後、システムやクラウドサービス上でマイナンバーが見られなくなったなどの障害が発生した際には、事業者に状況の確認やデータの修復などを依頼することが多いだろう。その場合、事業者がマイナンバーにアクセスできなければ、状況確認やデータ修復なども難しい場合が多い。そこで、システム保守事業者やクラウドサービス事業者もマイナンバーにアクセスできるようにすると、その場合は監督が必要な「委託」に該当することになる。