Q:なぜ住基ネットを活用しないで、新たな番号制度を導入するのか?そもそも、なぜマイナンバーが必要なのか?

国民一人ひとりに振られた番号としては、既に住基ネットで活用されている住民票コードが存在する。住基ネットの構築・導入に、かなりの費用を投じているにもかかわらず、なぜ住民票コードを活用せず、わざわざ新たな番号制度を創設するのか?

A:住基ネットに対しては、稼働後からプライバシー権を侵害しているのではないかという訴訟が相次いで起こり、最終的に最高裁で合憲であるという判決が下されました。住基ネットの利用範囲は「住民基本台帳法」によって制限されており、今回の番号制度が想定する用途にも対応しようとすると、同法の改正が必要になります。そうなると、抜本的な法改正が避けられず、やっと合憲判決を勝ち取った住基ネットの存在を危機にさらしかねません。そこで、政府は住基ネットとは別に、新たな番号制度の導入を決めたものと考えられます。ただし、番号を生成する「土台」の部分では、住基ネットも活用します。

 マイナンバー制度の導入が検討され始めた段階では、一部の政治家や有識者からは、住基ネットを活用すべきだという意見も出ていた。新たなシステムを構築するには大きな費用がかかること、そして住基ネット稼働開始から既に10年が経過したうえに、その間に年金記録問題が起こるなど番号制度に対する国民の認識が変化しているといったことを踏まえた意見である。しかし、政府は最終的に新たな番号制度を導入するという判断を下した。この判断の背景には、以下のような経緯がある。

 国による国民監視やプライバシー侵害などを懸念する反対意見に押され、利用範囲が法律で厳しく制限された住基ネットは、2002年に本格稼働にこぎ着けた。しかし、その後も住基ネットを巡って各地で違憲訴訟などが相次いだ。2004年の大阪地裁、2005年の金沢地裁、2006年の大阪高裁と名古屋高裁などの判決を経て、2008年には最高裁が住基ネットに対して合憲との判決を下した。

 住基ネットで今回の番号制度が想定する用途に対応するには、住民基本台帳法(住基法)の改正が必要になる。法律によって住基ネットの利用範囲が制限されているためだ。ただし、そうなると抜本的な法改正になることは避けられず、やっと合憲判決を勝ち取った住基ネットの存在を危機にさらしかねない。そこで、政府は別の番号制度を新たに創設したほうが得策だと判断したものと考えられる。

 ただし、番号制度を支える情報システムについては、住基ネットとは全く別にゼロから構築するわけではない。マイナンバー制度でも、国民一人ひとりに付番するための土台として住基ネットを活用する。ここでいう「土台」とは、住基ネットで活用している住民票コードを元にして、マイナンバーという新たな番号を生成するということ、および住基ネットのIT環境もできるだけ活用することを意味する。生成されたマイナンバーは住民基本台帳に記録・保管され、これが実質的にマイナンバーの原本となる。