行政を効率化するとともにサービスを充実

 冒頭の政府の説明にもある通り、「行政の効率化・スリム化」もマイナンバー制度を導入する狙いの一つである。日本の財政が危機的な状況であればなおのこと、行政の効率化と行政サービスの充実が求められる。具体的には、複数の手続きを1カ所の窓口で完結できる「ワンストップサービス」や、住民が申請をしなくても、適切なタイミングで行政側が自動的にサービスを推奨する「プッシュ型行政サービス」などの実現が望まれる。

 そのためには行政の縦割りを解消することが不可欠である。分断されている行政機関相互の情報を連携させる手段として、今回の番号制度が期待されている。

 なお、行政事務のインフラとして、番号制度の重要さを改めて認識させられたのが、2007年に発覚した年金記録問題である。しっかりとした番号制度がなかったために生じた問題であり、約5000万件のいわゆる“宙に浮いた年金”の記録は、その後の名寄せ作業によってもなお、約2000万件が残っており、解決に至っていない。

東日本大震災の経験を生かす

 2011年3月の東日本大震災の時、「避難所や避難先自治体で、(安否確認や支援物資の判断に極めて重要な)被災者名簿の作成に苦労した」「罹災証明書を発行するのが大変だった」との話を自治体の方からよく聞く。

 これらの問題は、確実な本人確認ができないこと、そして本人確認ができないために様々な個人情報(銀行口座、健康保険、介護保険、家屋関連情報など)をそれぞれの保有機関から、他人のものと誤ることなく収集することができなかったことに起因する。着の身着のままで避難した被災者は、住民基本台帳カードはもちろん、運転免許証やパスポートなど、日常であれば自分を証明するために使えたはずのものを携帯していなかったのである。

 さらに、そのいずれかを携帯していて本人確認だけは行えたとしても、それだけですべての個人情報を収集できるわけではない。例えば、災害が発生した場合に最も確実な証明手段といえる住基カードを本人確認に使えたとしても、そこに記録されている住民票コードの使用範囲が厳しく制限されている以上、収集できる関連情報も限られる。

 東日本大震災のように、多数の被災者が他自治体へ移住した場合に迅速かつ効率的に対処するためには、自治体相互の情報連携を可能にするインフラが必要になる。こうした面でも、番号制度は大きな役割を担うことになる。マイナンバー法では、災害時には都道府県知事が「災害救助法による救助又は扶助金の支給に関する事務」と「被災者生活再建支援金の支給に関する事務」に関してマイナンバーを利用することが認められている。だが、国民が非常事態にあるこうした時にこそ、社会インフラとしてのマイナンバーがさらにさまざまなシーンで真に国民の役に立つことが期待される。