個人のもつ暗黙知を共有化、明確化し、業務や経営に活用するマネジメント手法のこと。確立したやり方があるとは言い難いが、ワークスタイル変革を経営的効果に結びつけるうえで重要な視点である。

 ナレッジマネジメントは1990年代になって特に注目されるようになった。この時期、日本の優良企業を米国企業と比べた特徴として、一部のリーダーの個人的な活躍によってというよりも、知識や知恵の共有度を高めることに重点を置いた組織風土が業績に結びついているのでは、という考察が盛んに論じられるようになった。

 1996年に刊行された、経営学者の野中郁次郎氏と竹内弘高氏の共著による『知識創造企業』(東洋経済新報社)は、ナレッジマネジメントの基礎概念を提唱した書籍として有名である。同書では、個人の知識を組織的に共有し業績に結びつけるステップとして「共同化、表出化、結合化、内面化」を簡略化した「SECI(セキ)」というモデルを提唱した。

 ナレッジマネジメントへの関心が90年代に高まったもう1つの背景として、1人1台のパソコン環境やIT分野におけるグループウエア活用が同時期に本格化したことも挙げられる。当時のグループウエアのベンダーは、「ナレッジマネジメントの切り札はグループウエア活用」と主張し、ハウツー情報やノウフー(Know Who)情報などの格納庫としての活用を説き始めた。この時期以降、社内ブログや社内SNSといったコミュニケーション関連のITの仕組みが登場するたび、ナレッジマネジメントへの効用をうたうことが、IT業界では当たり前のようになった。

 ただし、ナレッジマネジメントを実践するうえでITツールは文房具的な要素にすぎず、実際には、知識共有へのモチベーション向上や啓蒙の工夫こそが成果を大きく左右する。実際、ナレッジマネジメントの優れた実践例として、ITツールを使わないホンダの「ワイガヤ(役職や年齢、性別を越えて従業員が集まり気軽に話し合う)」会議を挙げる識者も少なくない。