企業が実務上で苦労しそうなのはどんなところでしょうか。

立岩氏 社会保障と税の分野で、「上り」と「下り」でマイナンバーの扱いに一部違いがあることです。「上り」というのは届け出や申請書などの省庁などへ提出する書類、「下り」というのは通知書などの省庁などから返戻される書類のことです。上りは、社会保障も税も書類にマイナンバーを記載する必要があります。しかし下りでは、社会保障の分野、つまり厚生労働省から届く書類にはマイナンバーの記載欄が原則としてないのに対して、一部税の分野で本人へ交付される書類にはマイナンバーが記載されるのです。

 書類にマイナンバーの記載がなければ、マイナンバー運用前の取り扱いと同じ事務処理を行うことができます。しかし、マイナンバーが記載された書類は特定個人情報に該当するため、安全管理措置をとらなければなりません。

 単一の事務手続きの中で両方の種類の書類を扱うケースが特に問題です。典型例が、退職した従業員に対する関係事務です。一般に人事部門は、退職した従業員へ、離職月の給与明細とともに離職票や源泉徴収票を送付します。この場合、源泉徴収票にマイナンバーが記載されていると特定個人情報となるため、これまでのように普通郵便などの簡易な方法で書類一式を送ることは難しくなり、手間とコストがかかる懸念があります。

大野氏 マイナンバー制度には、まだ確定していない部分が少なからず残っています。例えば、マイナンバーの取得における本人確認方法で「個人番号利用事務実施者が適当と認めるもの」などは、現段階で国税庁は告示として公表済みですが、厚生労働省からは公表されていません。

 企業がマイナンバー制度への対応を進める際には、今確実にやらなければならないことと、不確定な部分を見極めることが重要です。例えば、システム改修のように、確実に実行しなければならないが時間がかかる作業は優先して対応しなければなりません。マイナンバー制度への対応では、個々の作業に対する優先度を決めることが大切です。社労士が、こうした情報も提供できるようにしたいと考えています。

 日本年金機構へのサイバー攻撃で個人情報の漏えいが明らかになりましたが、公平・公正な社会のための不可欠な基盤を作るという大義がある以上、臆することなくきっちり対応を進めていく所存です。