A. 固定席順をなくすフリーアドレス制は、オフィススペースの縮減と、組織の壁を超えた交流の活性化という一石二鳥を期待できます。ただし実際の導入に当たっては、マイナス面があることにも注意が必要です。

 フリーアドレス制のマイナス面はまず、毎日違う人と隣り合わせに座らなければならず、社員によってはストレスの増加要因になることです。若手社員たちが、管理職のそばの席に座ることを避けようと、管理職が座りそうもないエリアの席を取りあうような状態が発生するケースもあります。また、管理職の側でも、ヒエラルキーがはっきりしない位置の席に座らなければならないことや、雑用を頼める社員が必ずしも近くにいなくなってしまうこと、若手社員に対するOJT(職場内訓練)がやりづらくなることなどに不満を抱くケースがあります。

図●フリーアドレス実施時の主な注意点
図●フリーアドレス実施時の主な注意点
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 オフィススペースを縮小するという目的が行き過ぎた場合も、現場に負担をかけることになります。プロジェクト型の仕事やチームプレーが多い部署にもかかわらず、同じフロアの打ち合わせ用スペースが不十分だと、同じチームや部署の社員同士でちょっとした相談や打ち合わせをしたいときになかなか話をする場所がないということになりかねません。

 また、オフィス外でも業務をこなすためのIT面の整備が不十分にもかかわらず、席数をいきなり大きく減らせば、たとえ外出率の高い職種であっても、「社内資料の閲覧や各種申請/決済のため、頻繁にオフィスに戻って、空いている席を探さなければならない」という不満が発生する可能性もあります。

 こうした問題に対して、先行事例では「オフィスの出入り口に、抽選で席順を指示するパソコンを置いて、出社時に社員がそれに従うことにする」「フロア内に2~3人で打ち合わせられるスペースを十分に設ける」「部署ごとにある程度範囲を決めて、その中で自由に席を動ける“半フリーアドレス制”にする」「書類のデジタル化や、決済業務のオンライン化などを徹底し社外アクセスにも対応する」といった対策を講じています。

 フリーアドレスが軌道に乗りつつあるとされた企業でも、なじめない社員が一定数いることを認めていたり、数年後にはまた元に戻していたり、といった話は珍しくありません。前述のような問題点を踏まえたうえで、それぞれの職種や仕事に見合ったオフィスやITツールの整備を継続的に行っていかなければ、オフィスコスト削減と引き換えに現場のモチベーションを低下させることにもなりかねないので注意が必要です。

図●フリーアドレス実施時の主な注意点
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