製造業の物流倉庫では、人手不足が最大の悩みの一つ。作業効率の向上と並んで、作業者の安全確保も大きな課題となっている。これらの課題の解決に向けて、IoT(モノのインターネット)が注目を集めている。IoTを駆使して、これまで把握できていなかった作業者の動きを可視化し、そのデータを他の業務データと合わせて分析すれば、改善の糸口が見つかるのではないかと期待が集まる。実際にIoTで倉庫業務を可視化し、業務改善に結びつけた事例を紹介しよう。
物流倉庫の課題として、常に上位に入る「人員の確保」。必要な人員を確保するには賃金を上げる必要があり、それが作業コストの上昇につながっている。さらに変則的な勤務時間や拘束時間の長さといった厳しい労働環境から従業員の離職も少なくなく、現場にノウハウが定着しないという悩みを抱えている。
フォークリフトが動き回る倉庫内での作業にはどうしても危険が伴う。敷地面積の大きい倉庫では空調による温度管理が難しく、夏場などは高温になりやすく、熱中症などの突発的な傷病によって、急な欠員が発生するリスクも高くなる。特に最近は作業者の高齢化も進んでおり、若者に比べて反応速度や体力が低下している高齢者にも事故なく働いてもらえる環境の整備が急務になっている。
作業コストを抑えるには、無駄な作業をできるかぎり排除し、作業員のパフォーマンスを最大化するしかない。同時にノウハウを属人的なものとせず、システム側で適切な指示を出すことでパフォーマンス向上につなげたい。作業者の事故や身体的ストレスを防止し、無理なく安全に働ける職場を作ることも求められる。
一連の課題の解決に向けて、まず取り組むべきは、作業者の動線を可視化して、どこに無駄が潜んでいるかを定量的に把握する、いわゆる「動線分析」だ。だが、動線分析は、これまで人による目視やビデオ撮影などでしかできなかったため、膨大な手間とコストがかかり、実施のハードルが高かった。
そこで注目されているのがIoTの活用だ。作業者にビーコン(電波受発信器)を装着してもらい、ビーコンが発する電波を「ロケーター」と呼ぶ受信機で捉えることで、作業者の位置を簡単に特定できるからだ。
スマートフォンやタブレットを製造する富士通周辺機では、ビーコンを使った動線分析を糸口に、倉庫作業の効率化や安全性向上を実現している。同社の取り組みを紹介しよう。