高齢化が急速に進む一方で、介護現場は深刻な人手不足に苦しんでいる。入居者の転倒や夜間の容体急変に備えて、24時間365日の見守りの体制を築こうとすると、職員の負荷が増す上に、人件費がかさんで入居者の負担増を招いてしまう。コストを抑えようとして緊急通報ボタンや監視カメラといった見守りソリューションを導入する例もあるが、緊急時の対応やプライバシーの面で課題を抱えていた。これらの課題を解決するため、NPO法人が選んだ選択肢は何か。具体的な導入事例を見てみよう。

 少子高齢化が日本社会に暗い影を落としつつある。2025年には総人口の3割が65歳以上の高齢者となり、15歳.64歳の生産年齢人口はピーク時よりも1700万人も少ない7000万人まで落ち込む。一方で、高齢者の介護や看護を理由に離職・転職する人の増加も予想され、労働人口の減少に拍車を掛ける。こうした意味で高齢者が安全・安心に暮らせる環境作りは、まさに日本の競争力を左右する社会課題である。

 だが、高齢者が安心・安全に暮らせる環境作りを担う高齢者向け介護施設は今、深刻な人手不足に苦しんでいる。介護労働安定センターの調査によると、2016年度は62.6%の事業所が従業員の不足感を訴えており、前年度より1.3ポイント悪化している。人手不足の理由の7割は「採用が困難である」ことで、その理由としては「賃金が低い」が挙げる回答が最も多かった。

 「介護業界の人手不足は急速に拡大している。特に夜勤が可能なスタッフの確保が厳しい」。こう指摘するのは、介護施設の経営に詳しいQOLサービス代表取締役の妹尾弘幸氏だ。「人手が確保できずに閉鎖する施設が続出している。状況は今後さらに悪化するだろう」と続ける。

 人手不足を解消するために介護スタッフの賃金を上げようとすると、最終的には入居者が支払う料金に反映せざるを得ない。法律で義務づけられているかどうかは別にして、高齢者向けに、施設内の入念な見回りや入居者への頻繁な訪問で、異常がないかどうかを24時間365日体制で見守る体制を築こうとすると、介護スタッフの確保やコストの面で大きな負担となっていた。

 見守り業務を人手だけでカバーしようとすれば長時間労働につながり、介護スタッフにとって大きな負荷になる。そこで人に代わる手段として様々な見守りの仕組みが考えられてはいるが、実際には現場のニーズとは微妙にずれているものが多い。

 例えば、個室などに取り付けられた緊急通報ボタン。設置は簡単、操作もシンプルで分かりやすい。ただし、欠点もある。入居者が転倒して頭を打ったり、心臓発作で動けなくなったりした場合には、ボタンを押すことすらできないからだ。前出の妹尾氏も介護スタッフが困ることの一つとして「入居者の転倒」を挙げる。

 こうした課題を解決するために、富士通では「FUJITSU IoT Solution UBIQUITOUSWARE 居住者の見守りソリューション(以下、居住者の見守りソリューション)」を2016年12月からサービス提供している。音響センサーなどを搭載した「リモートケアベース」を活用し、居室内で発生する音を常時分析して、倒れた音などを認識して通知するソリューションだ。会話の録音やカメラによる撮影などを伴わない、プライバシーにも配慮した見守りが実現する。

 このソリューションを導入したのが、北海道釧路市で介護施設を運営するNPO法人「わたぼうしの家」だ。運営する介護施設に見守りソリューションを導入し、コスト負担や職員の負荷を抑えながら24時間365日の見守り体制を確立した。同施設が見守りソリューションを導入した理由はどこにあるのか、探っていこう。

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