今、多くの企業の情報システム部門がAI(人工知能)との付き合い方に悩んでいる。「AI活用の可能性を探れ」と経営層に指示されても、AIの知見やノウハウが十分とは言えないし、「どの業務から適用すべきか」が必ずしも明確ではないからだ。現場部門に協力を求めても、なかなか前には進まない。現場もAIをよく知っているわけではないし、日常業務の合間を縫って活用方法を考えるとしても限りがある。悩みを抱える情報システム部門はどうやって「AI導入の壁」を越えればよいのか、探ってみよう。
デジタルビジネスを推進する中核技術として、AIへの注目が高まっている。企業の経営者は「当社のビジネスもAIで革新できるのではないか」と期待して、自社の情報システム部門にAI活用の検討を指示する。
だが情報システム部門が、AIに対する知見やノウハウを持ち合わせているとは限らない。ある日、突然、「当社のビジネスでもAIの活用方法を考えるように」と指示されても、多くは困ってしまう。AI活用に取り組もうにも「どの領域のどの業務にどうやって活用すればよいのか」や「本当に成果は出るのか」といった「導入の壁」で立ち往生してしまう。
他社の取り組み状況を参考にしようと、メディアの記事を調べても、肝心なところはわからない。「AIを導入します」という記事はよく見かけるが、テーマ設定やアイデア出しの経緯に言及した記事はほとんどないからだ。「そもそも『成果が出るのはこれから』という側面もありますが、成果が出始めている企業でも競合に手の内を明かすようなことはしません」。多くのAIの案件に関わってきた富士通 AI&データアナリティクス推進部シニアマネージャーの菅井 正氏は、実践の参考になる情報が少ない理由をこう説明する。
そもそも現場部門のリクエストに応じて、システムの整備を進めてきた情報システム部門には、どこにAI活用の芽が埋もれているかわからないことが多い。このためAI活用の実践には現場部門の協力が不可欠なのだ。しかし、この現場部門の協力を取り付けるのは簡単ではない。現場部門にも「AIを使ってビジネスを進化させたい」との期待はあるが、どこにAIを使いたいかが明確でなく、また、本当に成果が上がるか判然としない状況では、費用面や人員面での協力には限りがある。