工場の生産ラインは、工程の改善や効率アップが常に求められる現場である。どの現場でも独自に工夫を重ねてきた歴史があり、当事者はこれ以上の成果を出すことは難しいと考えているかもしれない。しかし、そこにIoTという新たな手法を導入することで、さらなる効率化を行うことが可能になる。生産ラインの稼働状況やエラーの頻度など表面に出ない隠れたIoTデータを見える化し、不慮のストップや段取り替えに素早く対処する。こうした取り組みを実現し、大幅な効率アップを実現した事例を紹介しよう。

 「IoTで、実際に何ができるのか?」――。工場にIoT(Internet of Things)の手法を導入し、業務の見える化や効率化を進めようとするとき、現場から当惑の声が挙がることは少なくない。なぜなら、どの製造現場でも独自の手法で日々たゆまぬ改善活動を行い、生産性向上や安全性の確保に成果を出してきたという自負があるからだ。社内のIT部門やITベンダーなど、製造現場の門外漢から「IoTで工場の業務を見える化し、効率化を進めましょう」といった提案があっても、身構えるのは仕方ないのかもしれない。

FINET<br>代表取締役社長<br>中村 裕登氏
FINET
代表取締役社長
中村 裕登氏

 既に工場へのIoT導入によって大幅な効率化の成果を上げている企業も、取り組みの初期段階では現場との意見の乖離を埋めるのに苦労したというケースが意外に多い。富士通グループで企業ネットワーク向けの製品製造とサービスソリューションを提供する富士通アイ・ネットワークシステムズ(以下FINET、本社:山梨県南アルプス市)もその1社だ。

 同社は富士通グループの社内実践としてFINET山梨工場のプリント配線基板(PCB)実装ラインをIoT化し、ラインの停止時間を25%も削減するという大きな成果を得た。しかし、FINETの代表取締役社長である中村裕登氏は「自社の工場のラインにIoTを導入して本当に成果を出せるのか、現場の負担にならないか、当初、迷いがあった」と語る。そこで、取り組むにあたっては、まずIoT導入で何ができるのか、データから見えることは何かを明確にすることから作業を始めた。富士通のIoT部門と工場の現場が共にデータを検証しながら有効性を確認し合い、IoT導入の目的や目指すべき効果を共有していったのだ。

富士通株式会社<br>ネットワークサービス事業本部<br>IoTビジネス推進室<br>ソリューション部長<br>狩野 政春氏
富士通株式会社
ネットワークサービス事業本部
IoTビジネス推進室
ソリューション部長
狩野 政春氏

 富士通でIoTソリューションを推進するネットワークサービス事業本部 IoTビジネス推進室 ソリューション部長の狩野政春氏は、FINETにIoT社内実践の取り組みを持ちかけた狙いをこう振り返る。「IoTは様々なシーンで使われるようになってきており、中でも工場内に眠っているIoTのデータは、オペレーションの効率化から大きな経済効果が見込まれています。IoT時代の工場は、データの見える化と分析によって最適な生産が可能になり、将来の工場完全自動化への道筋を付けることも期待できます。工場IoTの可能性を検証しソリューション提供に生かすために、FINETに社内実践の共同実施を持ちかけました」(狩野)。

FINET<br>ビジネスソリューション部<br>部長<br>武井 尚也氏
FINET
ビジネスソリューション部
部長
武井 尚也氏

 ところが、実際にFINETと話を始めてみると、工場の現場はIoTによる効果を事前に目標として設定することが難しく、導入を進めながら評価する、というやり方に困惑していたようだという。「現場には、できるだけ自分たちのフィールドを理解したうえで、評価するものを明確にしてもらいたいという意識があったようです。また、IT系部門と工場の現場では言葉が通じない部分も多く、何を具体的に評価してもらうかといった調整に高いハードルを感じました」(狩野氏)。現場側からすると、IoTを導入するために現場に余計な負担がかかることへの懸念もあった。狩野氏たちは、まずは最低限の手間でうまくいくかどうかの実証をすることや、現場には負担をかけないことを説明していった。

 提案を受けたFINET ビジネスソリューション部 部長の武井尚也氏は、「これまでも工場では改善活動に取り組んできていたという自負がありました。しかし、富士通と協議を重ねるうちに、業務をしながらリアルタイムで課題を発見してタイムリーに改善するためには、IoTの活用が有効だと認識を改めました」と語る。現場の問題意識に寄り添った提案を聞くうちに、IoTの社内実践にチャレンジすることを決心した。

山梨県南アルプス市にある富士通アイ・ネットワークシステムズの山梨工場
山梨県南アルプス市にある富士通アイ・ネットワークシステムズの山梨工場
IoT導入の舞台となった山梨工場内にあるプリント配線基板(PCB)実装ライン
IoT導入の舞台となった山梨工場内にあるプリント配線基板(PCB)実装ライン

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