利用開始から何十年にもわたって使われる製造設備や社会インフラ。当初の機能・能力を発揮し続けるには、適切な保守点検作業が欠かせない。だが、実際の作業現場は、熟練者の定年退職などでスキルを持った作業員が不足しており、作業品質の低下や作業員の負荷増大に悩まされている。作業員の安全な作業環境を維持しつつ、これらの課題を防ぐ1つの手段がICTといわれている。ICTで何ができるのかを探っていこう。

 工場の製造設備や道路・橋などの社会インフラは、何十年にもわたって使い続けられる。経年変化による機能・能力の低下を防ぎ、所定の機能・能力を維持するためには、定期または随時の点検や修理、すなわち「保守点検作業」が欠かせない。

 保守点検の現場は今、様々な課題を抱えている。最大の課題は作業員の高齢化。ベテラン作業員の定年退職に伴い、長年培ってきたスキルやノウハウが失われてしまうと、作業の質を担保しかねる。

 ただでさえ保守点検の対象となる設備やインフラは設置環境や使用履歴が個々に異なるので、画一的な対応がとれず、技量が属人化しがちだ。社会インフラの老朽化に伴い、点検の頻度や箇所も増えている。こうなると少数の熟練者に作業が集中しがちで、若手への技能伝承もままならないというのが現状だ。

 「自社が実施している保守点検作業の全体像を把握できていない企業も多く、そうした企業では難易度がそれほど高くない作業もベテランに割り振ってしまいがちです」。ジェムコ日本経営の本部長コンサルタントで、製造業の現場に詳しい古谷賢一氏はこう指摘する。「こうなると一部のベテランに仕事が集中してしまい、若手への教育にますます時間が割けません」。

 保守点検作業の技能伝承は体系化されているとは言い難い。古谷氏は「様々な知識が複合的に求められる保守点検作業は標準化の難易度が高く、手っ取り早い手段として、技能伝承は“見よう見まね”のOJT頼りになっていました」と指摘した上で続ける。「ここ数年で、雇用延長で65歳まで働いていたベテラン作業員が続々と現場を離れており、技能伝承は急務になっています」。

 古谷氏によると、一部の企業ではベテラン作業員を教育に専念させたり、業務における教育の優先順位を上げさせている。だが、「そうするとベテランよりは技能の劣る作業員が業務を担当することになる。しかし、短期的に作業効率が低下する可能性があっても、経営者はこの重要課題に取り組んでいかなくてはならない」(古谷氏)。

 その一方で、経営者は保守点検作業のさらなる効率化を求めている。保守点検作業は、投じた金額に応じて売上が増えるわけではないので、投資ではなくコストとみられがちだ。設備や社会インフラに障害が生じると、大きな損失をもたらすことが分かっていても、である。

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