安全マネジメントにはコストがかかる――。そうした古い常識にとらわれている日本企業があまりにも多い。今や労働災害をなくすことは当たり前であり、それ以上に「危険自体をなくす」ことに注力するのが先進国の潮流だ。安全マネジメントを徹底することで、現場の生産性が上がる事例も出てきている。企業にとって安全確保への取り組みは単なるコストではなく、競争力向上のための投資としてとらえるべきである。ITツールやクラウドサービスを利用すれば、少ない投資で効果の上がる施策を実現することができる。
「日本企業の多くは『災害ゼロ』を掲げて安全マネジメントを実践している。これに対し、主要な欧米企業が目指すのは『危険ゼロ』だ。災害ゼロと危険ゼロは、考え方が根本的に異なる」。こう指摘するのは、セーフティグローバル推進機構 (Institute of Global Safety Promotion) 理事の藤田俊弘氏(*1)である。
セーフティグローバル推進機構(会長 明治大学名誉教授 向殿政男氏)は、安全に対する社会認識の変化や技術進化などによるこれからの時代の要請に基づいて、企業や組織で安全に関わる要員の力量を認証するための制度づくりやその運用、また新しい安全の戦略構築から展開までを行う一般社団法人で、2016年7月に創設された。特に企業経営層への安全概念の普及を重点テーマとし、企業活動における安全技術の振興と、産業安全の確保、また生産性の向上を目指している。
災害ゼロと危険ゼロは何が違うのか。災害ゼロは「危険な環境の中でも、人が注意して事故を起こさないようにすること」、危険ゼロは「災害が起こらないよう、危険源をなくすこと」を指す。どちらを志向すべきかは自明の理。とりわけ「危険ゼロ」にしっかり取り組んでいくには、現場任せにはできない。経営者の意思が重要であり、経営としての責任が問われる。
歴史的に見ても、このように日本と欧米では、安全の実現方法に関する考え方のベースがそもそも異なる。それ故、経営者の意識にも開きがある。藤田氏は現状をこのように説明する。