なぜIT部門は経営層の求めるITが理解できないのか?
「IT部門の役割が変わってきた」――。こう言われて久しい。しかし、いまだに多くの企業では経営とITの間にギャップが存在する。その大きな要因として挙げられるのが、「IT部門に経営の知識が足りないこと」だ。
それでは、経営層はどんな仕組みを求めているのか。それは日本企業を取り巻く経営環境を知り、それに応じて経営層が自社の課題にどんな打ち手を取ろうとしているのかを知ることが大切となる。ここではエーザイのCFOへのインタビューを基に、その一例を紹介したい。
最初に、時代の変遷を簡単におさらいしよう。高度経済成長を経てバブルが弾ける1990年代までの日本は、メインバンクとなる銀行が企業を統治する「バンクガバナンス」が全盛だった。だがバブル崩壊後に銀行の力が弱まり、これに代わる国内外の機関投資家や個人投資家といった株主(エクイティ)が企業を統治する「エクイティガバナンス」への移行が進んできた。ところがいまだ企業の中には、こうしたコーポレートガバナンスの大変革に対応できず、自社の企業価値を株主に明確に開示できなかったり、収益率を上げられないままという危機的状況が続いている。
「いま価値を高めない会社は市場から淘汰されかねません。例えば20年間、無借金経営でやってきましたというだけで、資本効率が低い場合は、PBR(株価純資産倍率)が1倍割れとなってしまう。これは簡単に言えば市場から解散した方がよいと言われているのと同じこと。実はそうした企業が日本には非常に多いのです」と語るのは、独自のファイナンス理論でエーザイの財務戦略を担う常務執行役CFO(最高財務責任者)の柳 良平氏である。
柳氏は日本企業の中長期にわたる価値創造への指針をまとめた「伊藤レポート」の執筆者の一人でもある。2014年に発表された伊藤レポートでは、ROE(Return on Equity:自己資本利益率)を企業の経営指標とする「日本型ROE経営」を提唱。日本企業は資本コストを上回る8%以上のROEを最低ラインとすべきだと具体的数字を挙げて提言した。これをきっかけに日本でもROE経営が急速に浸透しつつある。
「2017年に私が国内外の主要機関投資家に対して行った調査では日本企業のROEに不満を持つ投資家が7割以上を占めました」と柳氏は話す(図1)。
とはいえROEを短期的に高めればいいという話ではない。なぜなら、業種・業態や企業規模など各社が置かれている状況はそれぞれ違い、収益変動のリスクも大きい欧米企業とはスタンスも大きく異なるからだ。そのため日本企業の経営者やCFOは、持続的で中長期的なROE経営を推進しようと努力している。そこで重要な基盤となるのが「経営状況や財務諸表のモニタリング」と「非財務情報の収集・管理」という2つのITの仕組みである。
それはいったいどんな仕組みなのか。次ページ以降では、その具体的な内容を紹介していきたい。