サービスプロセス改革と顧客満足度の向上を目指してIoT基盤を刷新

キヤノン 映像事務機DS開発センター 部長の落合将人氏
キヤノン 映像事務機DS開発センター 部長の落合将人氏

 インターネットに接続されたデバイスから各種の情報を収集/加工し、新たな価値へとつなげる──そんなIoT(Internet of things)サービスの開発/提供に早期から取り組んできた一社がキヤノンだ。

 日本オラクルが2015年2月に開催した「Oracle Database Leaders Club」では、同社の落合将人氏(映像事務機DS開発センター 部長)により、世界各国の企業/組織で稼働する100万台超の複合機とグローバルサーバーから成る大規模IoT基盤を、「Oracle Exadata」をはじめとするオラクルの先進テクノロジで刷新した同社事例が紹介された。挑戦的かつ先進的なこの取り組みは、IoT時代の先駆けとして国内外で注目を集めている。

 キヤノンがIoTの取り組みを推進する主な目的は、自社や販売店が展開する複合機の保守管理サービスの高度化/効率化にある。これにより、自社/販売店の業務負担を軽減するとともに、サービスの提供スピードと品質を向上させ、最終的にはエンドユーザーの満足度を高めようというわけだ。

 かつて、キヤノンの複合機に対する保守管理サービスは、自社/販売店のサービス員(サービスエンジニアやセールスパーソン)による訪問形態が主流であった。つまり、サービス員が客先を訪問し、複合機のカウンターをチェックして請求書発行のためのデータを集めたり、顧客から機器故障の一報を受けて客先にメンテナンスに赴いたりしていたわけだ。しかし今日では、こうしたサービス提供のプロセスが、キヤノン独自のIoT基盤によって世界規模でシステム化され、効率化されている。

 その仕組みは次のようなものになる。まずキヤノン製複合機に組み込まれたIoTモジュールから、キヤノンが運用/管理するグローバルサーバーに(客先に設置された複合機の)稼働情報やカウンター情報がインターネット経由で送られる。この情報がグローバルサーバー経由で世界中の自社の販売会社/販売店に提供され、それを基にして販社/販売店が「機器故障への対応」「トナーの配送」「(カウンター情報に基づく)請求書の発行」といった各種サービスを遂行しているのである。

 「現在、このIoTソリューションは100を超える国/地域で利用されており、各国累計100万台を超える複合機が接続されています」と落合氏は説明する。

 IoTソリューションをベースにしたキヤノンの保守管理サービスの呼称は、国/地域によって異なる(日本での呼称は「NETEYEシステム」)。ただし、サービスの内容は基本的に同一であり、機器故障などをモニタリングする「リモート監視」、カウンター情報を自動的に収集する「リモート検針」の他、「ファームウエアの自動更新」「(消耗品の使用状況モニタリングをベースにした)消耗品の自動配送」、「機器管理情報(デバイスの稼働報告書)の提供」といったサービスが提供されている。

 落合氏によれば、これらは全て販社/販売店の業務効率とサービス品質を高め、顧客満足度の向上に寄与するものだという。

 「例えば、リモート監視により、販社/販売店はお客さまからの一報を待たずして、機器故障を速やかに把握し、適切な対策を打つことができます。また、故障個所や訪問先を事前に把握することで、訪問ルートの最適化やメンテナンス業務の効率化も図れます。その結果として、機器が使用不能な状態となる時間を最小化できるのです」と落合氏は語り、さらにこう付け加える。

 「消耗品の自動配送やファームウエアの自動更新は、販社/販売店/お客様の管理の手間を大きく減らし、機器管理情報を活用した複合機の利用状況を把握することで、TCO(総所有コスト)の最適化を図ることも可能となります」

ビジネスが拡大する中で顕在化した既存IoT基盤の限界

 キヤノンがIoTベースのグローバルなサービス提供を開始したのは2005年6月のこと。それ以前、同社の販社/販売店は、それぞれが独自に構築したシステムを通じて保守管理サービスを提供していた。

 そうしたスキームでは、販売網全体のIT投資(システム開発や保守のコスト)が過大に膨らむ可能性がある他、全体として新技術の導入スピードも上がらない。また、販社/販売店のサービス品質にバラツキが生じ、それが顧客満足度の向上において足かせともなりかねない。そこで、キヤノンは「販社/販売店のシステム保守コスト削減」「販売網全体でのIT投資の最適化」「世界均一のサービス品質の確保」「顧客満足度の向上」などを目的として掲げ、それらを実現するためのソリューションとして、IoT化の推進と、その中核を成すグローバルサーバーの構築/運用に乗り出したのである。

 こうして作られたキヤノンのIoT基盤(グローバルサーバー)は、長く販社/販売店によるサービスを支えた。しかし、運用開始から歳月が経ち、キヤノン複合機の普及が世界規模で進むにつれて、グローバルサーバーの性能/キャパシティに限界が見え始める。そして、運用開始から8年が経過した2013年、性能/拡張性/アーキテクチャのいくつかの点で、当初のグローバルサーバーがこれ以上の処理量増大や機能拡張の要求に耐えられそうにないことが明らかになった。そこで、キヤノンはグローバルサーバーの刷新、言いかえれば次世代グローバルサーバーの構築に着手したのだ。

 このプロジェクトの立ち上げに当たり、同社が設定した新システムの要件は次の三つとなる。

  • さらなる事業拡大(複合機の増大)に伴うIoT通信の増大への対応
  • 24時間365日の連続稼働を実現する高可用性
  • 旧来システムからの安全な移行

 キヤノンは、上記の要件に見合うグローバルサーバーのインフラとして、Oracle Exadataと「Oracle Exalogic」の導入を決定。これら二つのEngineered Systemsをベースに次世代グローバルサーバーを完成させ、2014年10月から運用を開始した。

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