“攻め”のITを具現化できている企業はいまだ少数
“攻め”のITを考える際、多くの企業がパブリッククラウドの活用を検討する。ところが現実には、思ったような成果が上げられていない企業も多いという。その原因はどこにあるのか。そして、最新のビジネス環境を支えるITインフラの理想形とは、どのようなものか。日経BP総研 イノベーションICT研究所 所長の桔梗原 富夫がモデレータとなって、ITベンダー、IT専門調査会社のキーパーソンと熱く語り合った。

桔梗原 「クラウドノーマル」という言葉が登場するほど、今日の企業ではパブリッククラウドの活用が一般化しています。一方で、「クラウドは取り入れたものの、思うような成果が得られない」という声も聞こえてくるようになりました。
山中氏 それは、多くのユーザーがクラウドに期待していた効果と、実際のクラウドが提供するメリットの間にギャップが存在するからだと考えています。
長年、ユーザー企業の情報システム部の課題として挙げられてきたのは、運用保守などの“守り”のコストを削減し、ITを活用して新たなビジネスを展開する“攻め”の力を増やしていくということです。サーバー仮想化、統合化といった“守り”の部分を削減する取り組みは、多くのユーザー企業で実施されてきました。
一方、クラウド活用で得られる本来のメリットは、システムに俊敏性、柔軟性を持たせるといった、“攻め”の力を得ることであり、“守り”のコスト削減効果は、実は限定的です。また、“守り”を削れば、その分が自動的に“攻め”の力になるかというと、そうではありません。企業は、情報システム部だけでなく、全社的にITを利用して、売り上げを伸ばすためにどのような新規ビジネスができるのかを考え、実行していくことが必要です。
こうして初めて、クラウドのメリットを全面的に享受できるようになるのですが、残念ながら日本では、そこまでたどり着けていない企業が大半です。従来の、“守り”のコストを削減することのみにフォーカスし、その流れでクラウドを導入してしまったため、期待と効果の「ギャップ」が発生してしまっていると考えます。
宝出氏 私も同意見です。また、パブリッククラウドが企業システムに入ってきて10年弱、業務に適用してはみたものの、当初の想定と違っていたと感じる場面も増えてきているようです。
これについてIDCでは、実態を詳しく把握するためにユーザー調査を行いました。パブリッククラウドを使っている企業のITインフラ担当者に対して、パブリッククラウドを利用した際に経験した課題について尋ねたところ、次のような結果が出ました。