クラウドやソーシャル、ビッグデータなどを駆使し、イノベーションを創出する「デジタル変革」が加速している。一方で、これら新しいテクノロジーも、すべての課題が解決できる万能なものではない。そのため、企業のIT部門にはさまざまなテクノロジーを組み合わせてベストブリードを展開する「ITサービスブローカー」としての役割が求められている。次世代ネットワークプロトコルの研究開発や、クラウドコンピューティングとSDNの信頼性と耐障害性の向上に関する研究などに従事する東京大学大学院 工学系研究科/WIDEプロジェクトの関谷勇司氏と、日本ヒューレット・パッカード テクノロジーサポート事業統括の酒井睦氏に、これからのエンタープライズITやIT部門に求められる役割とは何かについて聞いた。
「ハイブリッドクラウド」に立ちはだかる課題
クラウドの登場から随分たちますが、企業のITを取り巻く環境や課題はどのように変わってきたのでしょうか?
関谷氏:ようやくエンタープライズでの利用が本格化してきました。日本企業においても、より本格的にクラウドを活用し、これまで自社で購入・所有してきたITインフラを外部のクラウドを活用しながら素早く構築・リリースするようにシフトしてきています。
一方で、セキュリティ上の不安からまだまだデータを外に出すことに抵抗があるのも事実です。ですから、クラウドを一つの部品として積極的に活用しながらサービスを素早く展開する企業と、まだそういうマインドになっていない企業との差が広がりつつあるのが現状でしょう。
酒井氏:コントロールが及ばない外部のデータセンターに預けられないデータというのは今後も残り続けるはずです。自社が保有するすべてのデータをパブリッククラウド上に保存していいのかという議論があるのは当然でしょう。
一方、ビジネスにスピードが求められている現状を鑑みると、いかに早くITリソースを調達・展開し、アプリケーション開発を高速化していくかという課題があります。ITリソースの高速な準備、展開にクラウドの長所があるわけですから、オンプレミスとパブリッククラウドの長所を「いいとこ取り」するというのが現実解となるでしょう。
ハイブリッドクラウドの現状についてはどのようにお感じですか?
関谷氏:確かに両者を適材適所に使い分ける「ハイブリッドクラウド」は現実解といえます。しかし、実際のところ、企業はうまく両者をハイブリッドできているのかという疑問もあります。データはオンプレミスに持ち、データを使って処理する機能を外部に構築し、両者をうまく連携・統合できているのか。実態はサイロ化している現状を見ると、ハイブリッドクラウドはまだまだ実用フェーズに入っていないのではないかと感じます。
酒井氏:ITリソースの選択は、その企業が保有するそれぞれのデータの重要性に依存しますが、多くの日本企業でIT部門とビジネス部門がいかにしてITリソースを活用しながら、次のビジネスや次のサービスを高速で展開していくかというモードになってきていると感じます。
関谷氏:大学においても外に出せないデータがあるものは内部でシステムを構築し、外に出してもよいデータは外部のITリソースを使ってシステムを組んでいます。
これらは利用者にとって別々のシステムとして構築され存在する場合が多く、データ連携という意味では、果たしてこれをハイブリッドと呼べるかどうかという疑問があります。
オンプレとクラウドで構築したシステム同士をうまく連携できるようなソフトウェア、インテグレーション、コンサルティングをワンストップで提供してくれる企業が増えてくれば、ハイブリッドクラウドは実用フェーズに進んでいくのではないでしょうか。