多くの企業が「CX」を正しく理解できていない
「カスタマーエクスペリエンス(顧客体験:CX)」の向上が、顧客に選ばれる企業になるためのカギになる――。このことが、グローバルでは常識になりつつある。しかし、こと日本企業では、CX向上の成功例はまだ少ない。こうした差はなぜ生まれているのか。その理由と打開策について、マーケティングの最新動向に詳しいスペシャリスト2人が語り合った。
――日本企業では、CX向上施策が失敗に終わるケースが多いといわれます。その理由はどこにあるのでしょうか。
飯室 問題は、製造業をはじめとする多くの企業が、CXの本質をつかめていないことにあります。CXは、顧客がモノやサービスを購入する際、期待した「成果」が得られたかどうかと深く関係しています。例えば、量販店でカメラを購入する顧客は、買うこと自体が目的なのではありません。買ったカメラで旅先のきれいな風景を撮影したり、その写真を友人に見せるといった成果を得たくて、「買う」という行動を起こすのであり、企業はその成果を提供するために、モノやサービスを開発すべきなのです。
ところが、日本企業はかつて「作れば売れる」という時代を経験してきました。そのため、多くの企業がいまだに「モノを売る」ことだけに意識が向きがちで、顧客が求める成果には目が向いていません。結果、CX向上を支援するデジタルマーケティングソリューションを導入しても、使いこなすことができずに失敗します。実際、私もそうした企業をたくさん見てきました。その点、CXでは長い歴史を持つサービス業からは多くの学びがあると思っています。
ピーターセン 欧米をはじめとするグローバルでは、顧客が求める成果の重要性に多くの企業が気付いており、それに向けたマーケティング施策を展開する企業が増えています。
具体的には、eコマースサイトやメール、SNSから、コールセンター、営業担当者との対面まで、デジタル/アナログの複数チャネルにおける顧客行動をカスタマージャーニーとして可視化。それを一つながりの文脈(コンテクスト)として捉えようという「コンテクストマーケティング」の考え方が広く浸透してきているのです。
このアプローチによって、ある顧客の興味・関心に関する情報をチャネル横断的に集めることができれば、顧客が最終的に求める成果が何なのか、より容易に把握できるようになります。これにより、的確なCX向上施策を打つことができるというわけです。
――日本企業は、どうすればそうした方向へシフトすることができるのでしょうか。
飯室 まずは「誰がCX向上にかかわるのか」という点を含めた、抜本的な改革が必要です。