デジタルマーケティングを実践する取り組みが広がっている。様々な業種・業態の企業が「多様化する消費者一人ひとりを捉えたパーソナルマーケティング」に投資し始めた。各社が注力するポイントは、顧客一人ひとりの状態の”リアルタイム”な把握と、顧客の属性や嗜好、状態に応じてアプローチを変える”パーソナライズ”の両立だ。多くの企業がこのゴールに向かう過程で様々な課題に直面し、その解決に取り組んでいる。デジタルマーケティングの最前線を追った。
ITによって「ビジネスを作る」時代が本格化している。“車両を持たない世界最大のタクシー会社”とも形容される米Uber(ウーバー)に象徴されるように、ITを駆使した企業がこれまでの常識を打破し、大きく成長していく。そこでは顧客データベースがビジネスの基盤となり、ユーザー同士をマッチングするプラットフォームが活用されている。
しかし、現実はそう簡単ではない。例えば航空会社のこんなケースを考えてみよう。
ある顧客が海外に出張した際に、空港で荷物が受け取れなかった。航空会社のカウンターでクレームを入れるが、荷物がどこに行ったのかも、いつ受け取れるのかもわからない。当然、顧客はイライラしている。そんな時に航空会社から型通りのサンクスメールがスマートフォンに届く。「今回のご搭乗誠にありがとうございました。またのご搭乗をお待ちしております」。果たして顧客はどう思うか。怒りは倍増することになるだろう。
なぜこんなことが起きるのか。一番の問題は、分かっているはずの顧客の真の姿が見えていないことにある。上の例では、顧客が怒っていることは、ロストバゲッジに対応しているサポート部門しか分かっていない。マーケティング部門は顧客の今の姿を把握しないまま、通常のメールマーケティングを実施してしまい、顧客をさらに怒らせてしまったわけだ。マーケティング部門は自分の仕事を確実にこなしたつもりでも、結果として顧客満足度を大きく低下させていたのである。これは、デジタルマーケティングが進展し個々の業務単位では最適化されているが、企業全体で最適化されていないことが招いた結果ともいえる。
こうしたトラブルを解消する鍵となるのは、リアルとデジタルにまたがる顧客接点の情報を統合し顧客一人ひとりの情報をリアルタイムに把握すること。そして、その顧客情報を企業の部門間で共有し業務に活かすことである。しかし、その実現は簡単ではない。多くの場合、顧客の情報は各部門がバラバラに保有しており、部門の壁を越えて情報を共有する仕組みがないからだ。さらにリアルタイムに顧客の状況を把握する仕掛けもない。ここにはビジネス上の課題もあり、IT上の課題もある。