「強い組織」づくりに向けた5つのキーワード

早稲田大学<br>商学学術院<br>大学院商学研究科(ビジネススクール)教授<br>川上 智子氏
早稲田大学
商学学術院
大学院商学研究科(ビジネススクール)教授
川上 智子氏

 グローバル化の流れは、企業を取り巻く環境を大きく変えようとしている。マーケットの拡大とともに、消費者ニーズも多様化していくからだ。コモディティ化した商品・サービスでは熾烈な競争を戦えない。「その中で競争優位を獲得するには、イノベーションの創出に向けて、多様性や適応性を備えた組織能力の向上が不可欠です」と早稲田大学ビジネススクール教授の川上 智子氏は指摘する。その実現に向けたシナリオを読み解くキーワードは、大きく5つあるという。

 1つ目は「価値の共創化」だ。近年は消費者の価値概念が変化し、商品を購入するだけでなく、自らが情報や意見を発信する参加意識が強まっている。「売って終わりではなく、顧客との長期的な関係性を構築し、顧客と一体になって価値創出を図ることが重要です」と川上氏は主張する。

 2つ目は「グローバル化」だ。従来、製造業を中心に生産・販売拠点のグローバル化に取り組む企業は多かったが、近年はそれがさらに細分化され、事業単位のグローバル化が加速している。つまり、これまで以上に組織の柔軟性を高めていくことが重要となっているわけだ。

 3つ目は「ネットワーク化」である。グローバル化に伴い、組織内で働く人の場所も時間も広がっていく。上意下達によるプロセス重視の仕事のやり方ではマネジメントが難しく、成果も出しにくい。定義した役割を適切な人材に割り当て、その中で成果を生み出す仕事のやり方に変えていく必要がある。「人や業務をネットワークでつなぐことが、ますます重要になります」と川上氏は述べる。

 4つ目は「オープン化」だ。既存の枠組みを越え、取引先や顧客、大学・研究機関、場合によっては競合他社とも手を組み、オープンな環境でイノベーションを模索する。既成概念に捉われない自由な発想でチャレンジすることが重要である。

 そして5つ目が「ソーシャル化」である。消費者の関心の軸は「製品中心」から「価値主導」に変わり、企業にはより良い社会づくりへの貢献が強く求められている。つまり、商品・サービスの機能性や利便性だけではなく、環境に配慮したモノづくり、購入後の保守や廃棄に至るプロセスまでを含めたサポート体制など、付加価値の向上を図る必要があるわけだ。それが企業に対する愛着や好ましいイメージを育み、長期的な関係性の構築につながる。

 組織能力を高めるためには、この5つのキーワードへの対応が欠かせない。しかし、経営環境、顧客ニーズ、競合他社の状況は目まぐるしく変化する。この変化は非常に複雑で、かつスピードも速い。組織内の利用可能な能力が追いついていないのが現状だ。「求められる組織能力と利用可能な能力との間にギャップがあるのです」と川上氏はデイ(2011)の研究を参照し、指摘する。

 このギャップを埋めるために有効なのが、ITの活用である。「ITによって、時間や場所、組織間の制約をなくし、人や業務、データをつなぎ協働を進めていく。それが利用可能な能力を高め、変化の適応力を備えた『強い組織』を作り上げるポイントです」と川上氏は訴える(図1)。

図1●拡大する組織能力のギャップ
図1●拡大する組織能力のギャップ
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企業を取り巻く環境は急速な勢いで複雑化し変化していく。必要な組織能力の高まりに対し、組織が持つ利用可能な能力が追い付いておらず、このギャップを埋めるには、ITの活用しかない

 以降では、日本郵船、日立製作所(以下、日立)、ヤンマー3社の取り組みを参考に、強い組織づくりに向けたIT活用のポイントを考えてみたい。

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